<アヤサキ=フリート>エピローグ
「ねえ、マスター」
四葉がひそひそと声をかける。
「あの時、ドリルちゃんを完全にブッタ切れちゃうタイミングだったよね?」
「うん、そうかもね」
「じゃあ……」
四葉、傍らを行くピンクの機体をみやった。
「ま、いいんじゃないの?いろいろあるさ、あちらさんにも」
衛、あっけらかんと言った。
それよりも、こちらのダメージの方が問題だった。若菜の受けたショックは、かなりのものだろう。
「楓ちゃん……」
疲労のにじむ声で、若菜は言った。
「あの時……なぜ、虹野沙希は泣いていたのでしょうか?」
「……」
「彼女だけではありません。センチ=ベルの保坂さんも……何故、戦闘中に涙を」
「若菜さんは、泣いたりすることは、ないんですか?」
その楓の声も、疲れていた。だが、口調はしっかりしている。
「戦闘中に感情を出すことは、命取りになる。……お爺様にはそう教えられています」
「でも、泣きたくなる時って、ありませんか」
その楓の言葉は、若菜にとって意外だった。
泣きたい時には、泣けばいい。そう言っているように聞こえた。
「私には、あります。泣きながら戦ったこと……」
楓は、淡々とそう告げた。
「だから、なんとなくわかります。虹野さんや、美由紀さんの気持ち」
「私には、わからないのです」
若菜には、それがどうしようもなく辛かった。
「きっと、そのほうがいいですよ」
「……」
「きっと、分かってしまったら、今よりもっと辛くなると思うから」
二人のやり取りを聴きながら、花桜梨は胸の中で呟いた。
「……泣けるうちに、泣いておけばいい……」
自分の涙は、あの時にすべて流し尽くしてしまった。もう二度と、自分が涙を取り戻すことはないだろう。
それでいいのだ。楓の言う通り、きっとその方がいいのだ。
そう自分に言い聞かせながら、花桜梨は後ろを振り向いた。
トロイホースの姿は、もう小さな光点にしか見えなくなっている。
「さよなら……みんな」
そう告げた時、花桜梨は思った。
泣けたら、いいのにな……と。