暗礁空域。
 それは、宇宙の塵が集まる場所である。
 破壊された戦艦。MS。そしてコロニー。それらが小惑星の群れに入り交じり、真空の宇宙に凄まじい混沌を作り出していた。
 その塵の間を縫うようにして進む、赤く輝く戦艦がある。
 アヤサキ=フリート旗艦「グワデン」であった。
「こんなところに、ホントに基地があるのか?」
 柏木梓は、思わず素直な感想を口にしていた。
「あ、梓お姉ちゃん、そんな、若菜さんの前で」
 初音が、慌てて姉をたしなめる。
 だが、当の綾崎若菜は「いいんですよ」と微笑んでいる。
「こんなところだからこそ、身を隠すのにはちょうどいいのです。『茨の園』というんですよ」
「へえ、凝ったネーミングだな。なあ、楓」
「……」
「おい、楓?」
 梓が呼んでも、楓は答えない。無言で、メインスクリーンに映し出される大小の塵を見つめている。
「なんだか、アレ以来一層無口になっちまったなあ」
「仕方ありません……今は、そっとしておいてあげましょう」
 実際、若菜には楓の気持ちが痛いほどわかった。
「失う哀しみは、戦場に身を置くものの宿命。とはいえ、感傷に浸る自由くらいはあっても良いはずです」
「失う哀しみ?」
 梓と初音、思わず訊ね返す。
「そうです……戦うことは、常に喪失を伴うものなのですよ」
「……」
 若菜の意味深な言葉に、二人も押し黙ってしまう。三姉妹の胸に去来する人物は、同じだった。
「ですが」
 不意に明るい声になって、若菜は言葉を続ける。
「失うものもあれば、得るものもあります」
 そういって、サブスクリーンを指差す。そこには、グワデンに平行するように進む白い戦艦の姿があった。
「サラミス級?」
「ええ。『シェフィールド』。私たちの大義に協力してくれる勢力『G’S』からの増援部隊です」


第二話
「蒼ざめた瞳 見つめる炎」(1)





「おにいたま!!」
 船を下りるなり、その幼女の発した第一声は、それだった。
「おにいたまー!!ヒナだよーっ!!おにいたまー!!どこーっ!!」
 敬礼で出迎えるアヤサキ=フリートの兵達を無視して、可愛らしいバルーンスカートが、まるでボールのように港を跳ねまわる。
「おい、あれが『G’S』の誇る精鋭部隊のメンバーなのか?」
 兵のひとりが、横の同僚をつついて訊ねる。
「馬鹿いえ。戦災孤児かなんかを保護してきただけに決まっている」
 彼の言う通り、その子はあまりに幼すぎた。彼らの憧れの的である「祇園の悪夢」綾崎若菜もまだ18歳という若さだが、その子は若いというよりも「幼い」という年齢である。
 しかし、次に降りてきた子もまた、同い年くらいの幼女である。
「チェキ、チェキ、チェキよっ」
 虫メガネを手にして、兵たちの顔をじろじろ見つめてくる。
「じゃ、じゃあ、この子は?」
「た、探偵ごっこでもやってるんだろ。相手にするな」
 そこへ、また女の子が姿をあらわす。
「はぁい、あにぃ!!」
「お兄ちゃま!!」
「兄上様……」
 三人とも、やはり「幼女」という年頃の女の子たちである。
 兵士達と彼女ら、しばしお互いを探るようにして見つめ合う。
 しばしの静寂ののち。
「うわぁぁぁぁぁぁんっっっっっ!!!」
 最初に降りてきた女の子が、火が点いたように泣き出した。
「いないよーっ!!おにいたまがいないよーっ!!!」
 他の子たちもさすがに泣きはしないものの、やはり落胆したように肩を落している。
「ここにも、兄チャマいないね」
「うん……そうだね」
「でも、ここにいないだけかも知れないよ?」
「いいえ。兄上様がいらっしゃるなら、まっさきに私たちを出迎えてくださるはずです」
 その様子を、兵士たちは呆気にとられて見守るしかない。
「ようこそ、おいてくださいました」
 背後から、淑やかな声がする。そこには、綾崎若菜と鶴来屋の面々がやってきていた。
 兵たちが、一斉に振り返って敬礼を施す。
「はるばるメディアワークズから、ようこそ『茨の園』へ」
 にこやかに会釈する若菜。兵士たちが驚愕する。
「で、では少佐、この子供……い、いや、彼女たちが」
「そうです。新たなる我らが同志。『シスタープリンセス』のみなさんです」
「お世話になりまーすっ!」
 五人の幼女たち、かしこまって若菜たちに敬礼する。
「ボクは衛。モーターヘッド『破烈の人形』のヘッドライナーですっ」
「私は四葉。同じく破烈のお人形さんの『ファティマ』デス!。チェキ」
「私、鞠絵と申します。水の魔装機神ガッデスの操者を務めさせていただいてます」
「オーラバトラー『レプラカーン』のパイロットをやってます、花穂でーす!」
「ヒナね、雛子ってゆーの。とりあえず、オベレッタやってるの」
「おべれった?」
「オペレーターでしょ?ヒナちゃん」
 約一名を除き、そうそうたるメンバーだった。どのロボットも、アヤサキ=フリートの持つ旧式MSとは比べ物にならない性能を有している。
 そこで若菜、「あれ?おかしいですね」と首をかしげる。
「確か、増員は7名と聞いていましたが。後の二人は?」
「ええ、私たち『シスプリ』からは5名です。あとは、傭兵さんが二人」
 鞠絵に促されて面々がタラップを見上げると、そこには長い髪をした少女が二人立っていた。
「あの方達が?」
「ええ。川澄舞さんと倉田佐祐理さん。オーラバトラー『ズワァース』『バストール』のお二人です」
 剣を持っている方が舞さんだよ、と花穂が説明してくれる。
「そうですか。……ですが、何故降りてこられないのでしょう?」
 舞と佐祐理は、タラップの上から一同を見下ろしたまま、降りてくる気配がない。
 それどころか、まるで敵でも見るような目つきで、鶴来屋の方を睨んでいる。

(……?)

 その視線に、ただならぬものを感じた楓、わずかに身じろぎする。
 その時だった。

 たんっ

 突如、舞がタラップの上から飛翔した。佐祐理が「やめてっ!!」と叫んでいるが、それも耳に入らないようだ。
 彼女の手には、鈍く光る剣がある。
 それを頭上に掲げ、落下速度を利用して、思いきり楓に向かって振り下ろす。
 人間では、絶対に躱せないような斬撃。
 だが、楓はそれを躱した。
 切っ先が髪をかすめ、ハラリと宙に舞う。
 まるで現実味のないその光景を、楓はまるで他人事のように見つめた。
「…………」
 舞の鋭い視線が、楓の横顔を射抜く。
 剣が、再び振り上げられた。



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