GC0083年、4月末日。第三新東京市国際空港。
「晶ちゃんっ!るりかちゃん!妙子ちゃんっ!」
シャトルを降り立った三人を出迎えたのは、沢渡ほのかのはずむような声だった。
「ほのかっ!!」
「ほのかちゃん……ひさしぶりっ!」
タラップを駆け降りると、四人は抱き合って再会を喜ぶ。
「ふふ……よかったですわね。沢渡さん」
「あ……由梨香さん。あなたも?」
「ええ。LEAF沖縄基地への出向は終わりましたから」
にっこりと微笑んで、水谷由梨香は「今日からまたよろしく」と頭を下げる。
そこへ、「ちょっといいかしら?」という声。
「はじめまして、センチ=ベルのみなさん」
20代半ばほどにみえるその美人は、マコト=イズミと名乗った。
「マコト……あの、マルチナ博士の片腕として名高い、マコト=イズミ博士ですか
?」
晶と妙子、思わずかしこまる。るりかだけは、はえ?とそんな二人の顔を見つめて
いる。
「博士だなんて!。私のことは、マコトでいいわよ」
マコト、にっこり笑って握手を求める。その気さくな態度からは、とても科学者と
して名声のある人には見えない。
そこへ、地鳴りのような音が聞こえてくる。みんなが振り返ると、巨大な戦艦が空
港に向かって進んでくる。
「ライズさんの言った通りだわ……さすが、レッドの傭兵」
感嘆の吐息をもらして、マコト。だが、そこにはわずかに皮肉が篭っている。
「あの地上戦艦……どこかで?」
「それはそうだよ。あれはフリーデン。ほのか達とはドーメーカンケイにある、F&
CのWith youだよっ」
「ああ、なるほどぉ」
「エンジン部に被弾してるようね?」
晶が言うとおり、その白い船体は傷ついている。
「なんでも相模原で、アクアと一戦交えたそうよ」
「ふうん。DOSV内の派閥抗争も、いよいよ本格的だなー」
くわばらくわばら、と妙子。
(招かれざる客……ありきたりだけど)
マコトは、心の中で呟く。
(これで、凄まじい戦力が第三新東京に集結したことになる……でも司令、本当にこ
れでいいんですか?)
第二話「窓辺からやがて飛び立つ」(1)
「ついたわ。デザイアよ」
愛想もない口調で、ライズ=ハイマーはいった。
「みればわかるよ、そんなの」
彼女のそんなところには慣れてしまったのか、七瀬留美はあっさりと答える。
『ビルばっかりなの』
「みゅー……」
スケッチブックを掲げながら、上月澪は椎名繭とともにはしゃぎまわる。
「噂に名高い要塞都市……。ほぼ完成してるようだな」
メインスクリーンに映し出される鋼鉄のビル群を見渡しながら、フリーデンの艦長
である田中美沙は呟いた。
特務機関デザイア。
伊集院財閥、来栖川グループに並ぶ巨大財閥「グランチェスタ財団」嘱託の研究機
関。
エヴァンゲリオンと呼ばれる人造人間を活用した、巨大なプロジェクトを実施する
ための機関であると、一般には知られている。
(だが、ただそれだけにしては物々しすぎるな。軍隊をまるごと相手にできそうじゃ
ないか、この装備……)
思考に没頭する美沙に、
「あのぉ〜〜〜、美沙さん」
間延びした声がかかった。
「あ、ああ。なんだい、みこ」
長い黒髪を二つに束ねた少女「神山みこ」は、その黒目がちな瞳をきょとんとさせ
て、おっとりと美沙をみつめている。
「わざわざ『ロークラス』からみこを呼んだ理由はぁ、なんでしょうか?」
といって、小首をかしげる。
「みたところ、平和そうなところですけど?本当に魔装機神の力が必要なのでしょう
か?」
「それは私たちも聞きたいね。ねえ、瑞穂?」
「う、うん……」
「動と静」の構図そのままのコンビ、若林鮎と小早川瑞穂も、美沙に訊ねる。
「私たちは、みこちゃんと違って元の部隊は壊滅しちゃったから、どうでもいいっ
ちゃあいいんだけど。それでも、どうして自分たちが呼ばれたかって理由くらいは、
尋ねておきたいなあ」
「あ、鮎ちゃん……。そんな風に訊いたら、艦長に悪いわ」
なんとなく、このコンビは菜織と真奈美を彷彿させる。横でみていた伊藤乃絵美、
クスリと笑った。
「さあ……わからないな。正直いって」
美沙は苦笑するしかなかった。ニュータイプ能力を無くした自分は、そういった勘
が鈍っているように思える。
「はぁ〜〜〜」
うかない表情のまま、みこは曖昧に頷く。鮎と瑞穂も、釈然としない顔をしてい
る。
「琴音ちゃん……何か、感じる?」
乃絵美は、横にいる姫川琴音に訊ねてみた。琴音は、優れたニュータイプとしての
力を持っている。
「……私には、なんとも。ただ」
「ただ?」
「強い力を持ったひとが、あそこに、います」
強い力……琴音が言うそれは、もちろんニュータイプのことを意味している。
「だったら、とにかくデザイアに行ってみるしかないよね」
「そうね。それから考えましょう」
菜織と真奈美が、建設的な意見を述べる。
そう、すべての答は、あのデザイアにあるはずだった。
「逢えないって……どういうこと!?」
晶と美沙は、同時にそう叫んでいた。
デザイアのジオ=フロント(巨大地下構造)。その上層の一室に、センチ=ベルと
フリーデンの面々は足止めされていた。
センチ=ベルとWith youがここに来た理由はひとつ。デザイアの総責任者
にして地球圏最高の科学者「マルチナ=T=ステラドヴッチ」。彼女に逢うためであ
る。
「これ!SS軍のタベタ大佐からの親書よっ!これがあれば、取り次いでもらえるっ
て言ってたのにっ!」
「どういうことだい?。通信で面会を頼んだ時は、OKしてもらえたはずだが」
しかし、「今司令には会えない」と、マルチナの秘書であるレイコ=クサナギは言
うのである。
「レイコ……なんとかならないの?」
彼女とは親友の間柄であるというマコトが頼むが、レイコは申し訳なさそうに首を
振る。
「悪いけど、司令は忙しい方だから……。訪問客は、何もあなたたちだけじゃない
し」
「その通りなのだ」
その高慢な声に、面々が振り向くと。そこには、小柄な少女が腰に手をやったポー
ズのまま立っていた。傍らには、黒服のボディーガードが付き従っている。
「伊集院メイさん……」
レイコが、彼女の名を呼ぶ。
「伊集院、ですって?」
「伊集院ってあの、伊集院財閥の伊集院!?」
「うむ、そうなのだ。メイなのだ」
小悪魔的容姿に似合わぬ、威圧的な口調。
「な、生意気なお子様だなあ……大人同士に会話にはいってきちゃ駄目でしょ?」
るりかが、メッ!とたしなめる。
「なんだ、サル。気安くメイに話し掛けるでない」
「サル?」
「誰のことだろ?」と周囲を見廻するりか。みんなの表情から、ようやく自分のこ
とだと知る。
「な、なんですってえ!?こんのぉっ……」
飛び掛かっていこうとするるりかを、妙子と由梨香が必死になって止める。
「ふん、宇宙ではずいぶん活躍したようだが……。なんなら、メイが相手になっても
よいぞ?センチ=ベル」
「面白い冗談ね?」
プライドを刺激されたのか、晶がひきつる顔で応じる。
「PS軍とSS軍の決着、ここでつけましょうか?」
「望むところなのだ。グランゾンの力、みせてやるのだ」
「待ちなさいッ!!」
それまで黙ってなりゆきをみていたレイコが、二人の間に割ってはいる。
「デザイアは中立地帯です。ソニーとセガの確執など、ここに持ち込むことは許しま
せんっ!」
その凛とした声に、思わず面々は押し黙る。
「メイさん。あなたは本来の任務があるはずでしょう。こんなところで油を売ってな
いで、持ち場に戻ったらどうなの」
「ふん……いくぞ、咲之進!」
面白くなさそうに鼻を鳴らすと、メイは踵を返して去っていった。
「む〜〜〜っ、なによなによ、あの子!すっごい生意気っ!」
「さて、あなた方も、あてがわれた宿舎にお引き取り願います」
面々に向き直ると、レイコはそう言った。
「で、でもっ、あの、私、えいえんのせかいの……」
『聞きたいこと、いっぱいあるの』
諦めきれない様子の乃絵美と澪が、なおも取り縋ろうとするが。
「……やめておきなさい」
ライズが、冷静な声でそれを制する。
「滞在が許されただけでも、特例中の特例よ。ここは大人しく待ったほうがいいと思
うけど」
「……仕方がないか」
ため息をついて、美沙。
「だが、ひとつだけ教えてくれ。あの子、伊集院メイ。伊集院家令嬢である彼女が、
なぜこんなところにいる?」
「それは私も聞きたいわ」
横から晶も口を挟む。わけもわからないまま呉越同舟など、たまったものではな
い。
「……ある人物の護衛、とだけ、言っておきましょう」
レイコは、それ以上語ろうとはしなかった。