デザイアシナリオ2−1(ケイジ編)
晶は、ほのかと由梨香の案内で、エヴァの格納されているケイジへとやってきていた。
「ふふ。ほのかのエヴァってどんななのかしら」
「私の伍号機とは、かなり違うフォルムですよ」
「うん、そうだよね。由梨香さんのは、量産タイプだから」
なんだかご機嫌な晶の様子に、由梨香とほのかの表情も明るい。
赤い液体の海に桟橋のように浮かぶ通路を、三人は歩く。
「世界で初めて制式採用になった『エヴァンゲリオン』なんだよ」
「プロトタイプである零号機、テストタイプである初号機を経て、ようやく完成したんです」
説明してくれているふたりに「ふうん」「へええ」と返事を返しつつ、晶は施設内をキョロキョロと見廻している。
(うわぁ……あんなにおっきなクレーン、はじめてみたわ)
「組み立てはドイツで行われてたから、しばらくほのかもドイツにいってたんだよ。ソーセージがおいしかったなあ」
(わ、わ。あのドリル、なんにつかうのかしら。ダイターンにとりつけたら……)
「晶ちゃん、こういう話つまんない?」
と、突然ほのかが振り向いた。
「え、え?うん。そうね、ソーセージは私も好きよ」
「……あの、別にほのか、ソーセージの話してたんじゃないんだけど」
「晶さん、そんなにデザイア内部は珍しいですか?」
「そ、そんな子供じゃあるまいし。このくらいのモノ、私には見飽きてるわ」
そう言って涼やかに髪をかき上げながらも、そのヘアバンドの下のおでこには汗が浮かんでいる。
「そぉ?。……まぁ、いいけど」
ほのかは、「ついたよ」と左手を指差した。
そこには、赤い巨大な頭があった。
緑色をした小さな眼球のようなセンサーが、左右に二つずつ配置されている。それはロボットというよりも、昆虫的なものを想起させる。
「これが、弐号機?」
「そうだよ。隣の紫が初号機。その隣のオレンジのが零号機だよ」
と、ほのかが教えてくれる。
「それにしても、どうしてどのエヴァもこの赤い水に浸かってるわけ?」
しゃがみこみ、晶はその液体に指で触れてみた。ぬるっとした感触が伝わるが、何故か不快ではない。
「それはLCLといいまして。エヴァの状態保持には、こうしておくのが最良なんだそうですよ」
「水に浸けておくのがいいなんて、変わったロボットねえ」
晶は、初号機の方に歩いていく。大きな角のついたその頭部は、戦国武将の兜のような形状をしている。
ふと晶は、その初号機の角の根本ところに、小さな人影があるのに気がついた。
それは、同い年くらいの少女だった。
病的に白い肌。痩せぎすの身体。生気のない表情。
だが、瞳だけは強烈な光を放っている。
「……なに?」
もの憂げに顔をあげ、少女は呟いた。あまりにか細かったので、それが自分に向けたものだと気がつくまで、晶は数瞬を要した。
「え?……あ、いえ。なんでもないけど」
助けを求めるように、ほのかと由梨香の方を振り向く。
二人とも、バツの悪そうな表情だ。
「あ、あの、真乃さん。ごめんね、お邪魔だったかな」
「……別に」
ほのかの取り繕うような笑顔を一瞥して、少女は素っ気無く言った。
「こちら、センチ=ベルの遠藤晶さん。昨日デザイアに到着されて、今ケイジを案内していたところなの」
由梨香の紹介にも、少女は「そう」と呟いただけで、それきりそっぽを向いてしまった。
「……ちょっと、あなた」
「あ、晶ちゃん。怒らないで」
「そうです。真乃さんは、いつもああなんですから」
「な、なによ。私、別に怒ってないわよ」
晶は再び少女に問い掛けた。
「ねえ、あなた。前にどこかで、会ったことなかったかしら」
そこで、はじめて少女は晶の目をみた。肩口で綺麗に切り揃えられた髪が、わずかに揺れる。
しかし、それも一瞬のことだった。
「気のせいよ」
そう言って、すぐに少女は視線を逸らしてしまった。
「ね、もういいでしょ、晶ちゃん。いきましょ」
晶は、納得のいかない表情のまま、ほのかと由梨香にひっぱられてケイジを後にした。
その後晶は、デザイアの食堂で二人からあの少女のことを聞いた。
「サードチルドレン・真乃那美(まことの・なみ)。初号機の専属パイロット」
「サード……じゃあ、ほのかの次にパイロットに選ばれたわけね。どこの人?」
「ううん、知らない。本人はあの通りの人だから、なにもいわないし。マコトさんやレイコさんに聞いても、教えてくれないし」
ほのかの言葉に、晶は首をひねる。
「おかしいなあ。確かに、会ったことあるような気がするんだけど」
「そういわれてみれば、ほのかもそう感じる……かな?。でも、あんなにキョーレツな人、会ったら絶対忘れないと思うんだけどなあ」
二人して、首をかしげる。
「他人の空似じゃないですか?」
由梨香の言葉にも、晶はいまいち納得できない様子だ。
「あの子、いつもああなんだよ。ずっと初号機から離れようとしないし、誰とも話さないし……」
「人付き合いが苦手な人なの?」
「苦手というより、なんだか私たち、怨まれているみたいです」
「一度、泳ぎに誘った時も、睨み付けるみたいにして『構わないで』って……」
ほのかと由梨香、肩を竦める。
「ふうん……。それで、パイロットとしての腕は?」
実力主義者の晶らしい質問だった。
「ああ、それは申し分ないです」
「シンクロ率50%以上だもんね。ほのかや由梨香さんは30%がせいぜいなのに」
「シンクロ率って?」
聞きなれない単語に、晶。
「エヴァは、パイロットと神経接続することによってコントロールするんです」
「ああ。シンクロ率が高ければ高いほど、精密な操縦が可能ってわけね」
「もっとも、シンクロ率が高いと、機体ダメージのフィードバック率も増幅されちゃうから」
あんまり高くなりたくないなー、とほのかと由梨香が笑う。
つられて笑いながらも、晶は、あの少女の落ち窪んだ瞳の中の光が、頭から離れなかった。