デザイア2−2−1(司令と直談判編)



 デザイア司令室へと続く通路に通せんぼするようにして、警備員が立ちふさがっていた。
「今、総司令は執務中です。誰ともお会いになりません」
 の一点張りである。

『そこをなんとか』

 澪のスケッチブック攻撃にも、表情ひとつ変えない。訓練された人間にしか作れない無機質な表情で、首を横に振る。
「私たちは、マルチナ総司令に会うためにはるばるやってきたんだ。それはないんじゃないか?」
 美沙の声は冷静だが、それだけに却って迫力がある。横にいた乃絵美、思わずぴくりと体を震わせる。
「なんとおっしゃられましても……」
 その時、警備員の後ろから白衣の男が歩いてきた。
 デザイアの副司令、Drゲーツである。
「どうしたね?」
 静かな声で、ゲーツは警備員を一瞥する。
「はっ。この方々が、総司令にお会いしたいと」
「ほう……」
 品定めするように、ゲーツは澪たちを嘗め回すように見つめた。
「総司令に会いたいのかね、DOSVのバンビ」
「私のことを知っているのか」
「もちろん。ニュータイプ研究者にとって、君の名は重過ぎる」
 そう言って、ゲーツは笑った。
「総司令は今大事な研究中で、誰とも会わない。どうだね?。副司令の私でよければ、話を聞くが」
「……いいだろう」
 美沙が頷くと、副司令は「ついきたまえ」と言ってゆっくりと歩き出した。
 乃絵美が後に続こうとすると、琴音が「くい」と袖を引っ張った。
「ど、どうしたの?」
「私……行きたくない」
 そう呟いて、顔を伏せる。

『気分でもわるいの?』

「ううん、そうじゃないけど……」
「おい、なにしてる」
 先を行っていた美沙、立ち止まったままの三人を促す。
「大丈夫だよ、琴音ちゃん。美沙さんもいるんだし」
「……うん」
 一応は頷くが、琴音の表情は晴れなかった。


 四人は、ケイジ管制室に案内された。
 そこからは、デザイアの誇る「エヴァンゲリオン」が四体とも一望できるようになっていた。
「どうだね、壮観だろう」
 エヴァの異様な姿に釘付けになる澪たちに、ゲーツの優越感を含んだ声がかけられる。
「あれが、エヴァか」
「そうだ。我がデザイアの最高傑作。人類の科学が生み出した、至高の決戦兵器だよ」
 ゲーツの演説を遮るように、美沙は最初のひとことを切出した。
「私は、ニュータイプを探している」
「ここには、ニュータイブはいない。君以外はね」
 ゲーツ、琴音を見て、意味ありげに微笑む。
「君が、噂のLEAFのニュータイプだな?」
 琴音、体を固くして乃絵美にすがりつく。
「どうだ、私の実験に協力してもらえないか。君は、多いなる可能性を秘めたニュータイプ。そして『サイコドライバー』だ」
「サイコドライバー?」
 耳慣れない単語に、美沙が訊ね返す。
「そうだ。ニュータイブとは似て非なる能力。ニュータイプが『認識力』であるとするなら、サイコドライバーは『念動力』だ」
「念動力?テレキネシスとでもいうのか?」
 そんな馬鹿な、と美紗は鼻で笑う。ゲーツの表情が、わずかに歪んだ。
「信じないのは勝手だが……。その研究はすでに地球圏規模ではじまっている。サイコドライバーにとってのサイコミュにあたるT−LINKシステムの試作機も、PS軍でロールアウトしたそうだ」
 それまで無言だった乃絵美が、そこで口を開いた。
「そのサイコドライバーって人達も、戦争の道具になるんですか」
 ゲーツ、乃絵美を一瞥する。
「君は、確かGXのパイロットだったな」
「……はい」
「サテライトキャノンの引き金を引いた君なら、わかるはずだが?。『特別な力』を持った者の強さを」
「だ、だからって」
「人はより強いものに憧れる。それを研究し、利用したいと思うのがなぜ悪い?」
「利用される側のことは、考えないのか」
 美沙の、怒りを押し殺したような声。
「安いな……。田中美沙大佐、君のライバルだった『あの少女』なら、そんな青いことは言わないと思うがね」
「貴様……」
 一触即発の空気が、管制室に漂う。
 それを破ったのは、

『わたしからも、ひとつきいてもいいですか?』

 という、澪のスケッチブックだった。
 どうやら、彼女には今の話の内容はちんぷんかんぷんだったようだ。自分より遥かに長身のゲーツの顔を見上げながら、にこにことスケブを掲げている。
「なんだね?君は」

『ONEの、上月澪なの』

「ほう……。ONEには確か、里村茜という優れたニュータイプがいたな」
 君には用はない、といわんばかりの傲慢な口調だった。だが、そんなことでめげる澪ではない。

『わたし、えいえんのせかいについてのこと、ききたいの』

『デザイアでは、研究がすすんでいるんでしょ?』

「そ、そうだ。私にも、教えてください」
 乃絵美も、ゲーツに食い下がる。
「えいえんのせかい事件に関しては、我がデザイアでも掴んでいることはほとんどない」
 澪、がっくりと肩を落す。
「ただ……」
「?」
「ここデザイアにいれば、『えいえんのせかい』からのシ者は必ずやってくるだろう」
 謎めいた言葉だった。面々に、怪訝な表情が浮かぶ。
「そのうちわかるさ」
 ゲーツはそう言ったきり、それ以上は何も語らなかった。



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