デザイア2−3−3<後編>
それは、どこからやってくるのか、誰も知らなかった。
「駒ケ岳防衛線、突破されました!!」
「遺作、臭作、共に全滅!!回収いそげ!!」
オペレーターの悲痛な声を、ヒルタ中将は苦虫を噛み潰す思いで聞いてた。
作戦指令室のメインモニタには、髑髏の顔を持つ「巨人」が大写しになっている。
中将が繰り出した部隊は、その巨人によって全滅させられていた。
「……残存勢力は?」
「わずかに、リフレイン・ブルーが残っていますが、投入なさいますか?」
「彼女らをここで失っては、DOSVは本格的にLEAF独裁を許すことになります。ここは、今後のことを考えて自重なさった方がよいのでは」
横に控えている参謀が、そっと耳打ちする。
中将、思わず彼を殴りつけたい衝動にかられる。今後?自重?。何もわかっていない。LEAFなど、問題ではない。
人類が生き残るか。「巨人」が生き残るか。その二つにひとつしかないのだ。
「閣下、デザイアのマルチナ司令より、通信が入っております」
「……繋げ」
サブモニタに、マルチナの顔が映し出された。
「苦戦しているようですね」
「見ての通りだよ」
いまいましげに、吐き捨てる中将。
「言ったはずです。使徒相手に、通常兵器では役にたたないと」
「君の報告書は読んだ。だが」
反論しかけた中将に、オペレーターが駆け寄ってきて、何事かを耳打ちする。
その表情が、さっと変わった。
「……了解したと伝えろ」
うなだれたようにつぶやくと、中将はマルチナに向かって言った。
「DOSV連邦政府からの正式な通達だ。現時刻を持って、本作戦の指揮権は、すべてデザイアに譲渡された」
「了解です」
「我々の戦力が、使徒に通用しないことは認めよう。……だが、君なら、勝てるのかね?」
「そのための、デザイアです」
わずかに、マルチナが笑ったように見えた。
我を忘れるほどの怒りに一瞬囚われた中将だが、自分の矜持と人類の命運、どちらを優先すべきかを判断することはできた。
「期待しよう」
短くそう答え、強制的に通信を切る。
マルチナの顔が一瞬にして暗い闇に変わった。
再び、第三新東京市。
「……取り込み中のところ……すまないが……」
全方向回線で、千影の静かな声。
「来た……ようだぞ……」
ドウッ!!
轟音と閃光が、同時にやってきた。
十字架の形をした火柱が、大地に突き刺さるようにして立ち上る。
「て、敵の攻撃!?」
「そんな、どこから!?」
ヘビーアームズが、天空を指差した。
そこには、ドクロのような頭部を持つ、奇妙すぎる「巨人」が浮いていた。
「い、え?あ、あれ、ロボット……じゃなくて?」
「れっきとした、生物なのだ!」
興奮したように、メイが叫ぶ。
「待ってたぜえ……」
アルギル、部下のカレイツェド二機に、巨人への突撃を命じた。
「なに?あいつらの仲間じゃないの?」
戸惑うるりかの目の前で、カレイツェドは巨人から伸びた「腕」によって、蚊蜻蛉のように地面に叩き落とされた。
「まだまだぁぁ!!」
ゲイオス=グルードの胴体部から、高出力のビームが放たれる。
だがそれは、巨人の目前で見えない壁に阻まれたかのように四散してしまう。
「あれは……!」
ライズ、ハッとなって呟く。
『みずかちゃんのときと、おなじなの』
澪も気づいていた。先日の相模原で、サテライトキャノンすら退けたバリア。それが、巨人によって展開されている。
「ATフィールド……噂通り……素晴らしい」
恍惚とした表情で、千影は呟く。
「何が素晴らしいものか!。あれは、人類を滅ぼす悪魔の力だぞ!」
メイが吐き捨てるが、
「いや……人類をあるべき世界へと……連れて行く……神の力だ」
千影の瞳から、憧れの輝きが消えることはなかった。
「三人目だな」
ゲーツのその口調には、隠しようもない興奮が滲み出ていた。
「ええ……」
答えるマルチナは、対照的に冷やかだ。
「死海文書はたいしたものだ。寸分の狂いもないぞ」
「Windowsの方からは、何か?」
「老人どもとて、今は我々に頼るしかあるまい。何もできんよ」
「……そうかしら……」
その様子を、マコトが眺めている。
(あの二人の関係……不可解なことが多すぎるわ)
「パターン青!!使徒です!」
「…………」
「マコト作戦部長!。命令を!」
「え、あ、あ……ごめんなさい」
オペレーターのシェリルに促され、マコトは我に返った。
「しっかりなさい。エヴァの運用は、あなたに一任されているのよ」
レイコが、気づかわしげな顔で親友の顔をみやる。
「わかってるわ」
マコト、マルチナの方を向いて訊ねる。
「エヴァを、出撃させます」
「ええ」
「……本当に、いいんですね?」
「もちろんだ。使徒を倒さねば、我々に未来はない」
ゲーツ副司令が代わりに答える。
マコトは無言で向き直ると、シェリルに告げた。
「エヴァンゲリオン初号機、弐号機、伍号機!。発進準備!!」