ドルファン(優&えみる)
沖縄でセンチ=ベルと別れた永倉えみる、そして七瀬優は、久々の地球を満喫すべく世界を駆け巡っていた。
そんなある日。南欧圏にあるドルファン王国にまでやってきた二人は、そこでひとりの神父と出会う。
それが、二人の不思議な旅路のはじまりだった。
第二話「俺は涙を流さない」
「なるほど……確かに酷いね、ここ」
ウイングガンダムで降り立ったそこは、森だった。
いや、森とはもう呼べないのかも知れない。木の幹は醜くねじ曲がり、地面には赤い錆のようなものが浮いている。
これで草木が生えているのが不思議なくらいの、凄惨な光景だった。
「お化けでもでそうな雰囲気りゅん……」
悲しそうに森をみつめながら、えみるが呟く。ALARICのモニタ越しに見るそれは、緑あふれる仙台で生まれたえみるにとっては信じられない自然の姿だった。
「あの神父さんの言ったこと、ホントだったんだね」
「ホントに……森が泣いてる。そんな気がするよ」
不快感を露にして、優が呟く。
ドルファン城塞都市。シーエアー地区にある教会。
ステンドグラスの光も神秘的な礼拝堂で、優とえみるは神父の話を聞かされた。
「この王国には、魔女の森というものがありましてねぇ」
神父は、芝居がかった口調でそう語り始めた。
「ここから北にいったところ……カミツレ地区と呼ばれるところなのですが。そこにはメネシスという科学者のラボがあるのですよ」
「科学者なのに魔女?」
「なんかヘンだりゅん」
二人の容赦のない反応に、神父は穏やかに笑う。
「この国では、いまだ科学というものが異端として扱われていましてねえ。歴史の古い国ですから」
「コロニーに人が住むっていう時代に、面白いもんだね」
「理由はそれだけではありません。メネシスは、魔女呼ばわりされても仕方のない所業を行っているのです」
メネシスによって行われた様々な化学実験、軍事実験により、ラボ一帯は自然破壊が進み、森などはもう原型を留めないまでに汚染されているのだという。
「それで、魔女の森か」
「んでんでぇ、神父さんは、えみりゅん達に何をして欲しいりゅん?」
「なぁに、簡単なことです。あなた方は正義の騎士として、あの魔女を懲らしめてもらいたいのですよ」
メガネの位置を指で整えながら、神父。
「懲らしめる?。MSで?」
「ええ、そうです」
こともなげに神父は言うが、内容はかなり突拍子もない。
「つまり、そのメネシスラボにテロを仕掛けろってことでしょ?」
「えみりゅん達、テロリストじゃないりゅん!」
憤慨したように、えみるが立ち上がる。
「おや……。テロ呼ばわりは心外ですね」
神父はきょとんとして、二人の顔を見比べた。
「優嬢、あなたはどうお考えで?」
「私は……」
「ジン・ジャハナムから聞いていますよ」
さすがの優も、これには絶句した。
意外な人物から、意外な人の名を聞かされてしまったのだ。
「あなた、一体?」
「ふふ、私は、リガ・ミリティアの諜報員でもあるのですよ。シューティングスター」
それは、優がまだ宇宙を旅していたころの二つ名だった。
「そんなことまで知ってるなんて、どうやら本当みたいだね」
「そういうことです」
「じゃあ、そのメネシスラボを襲撃しろっていうのは、リガ・ミリティアからの指令だと思っていいのかな?」
神父、無言で頷く。
「ふう……それじゃあ、聞かないわけにはいかないかな」
ため息をつく優に、えみるが「はんたーい!はんたーい!」と手をあげて叫ぶ。
「ふふ、えみる嬢。実は、こんなものが届いていましてね」
そういうと、神父は一枚のディスクをえみるに差し出した。
「あなたの上官、タベタ大佐からの命令書です」
「し、神父さん、あのおっちゃんと知り合いなのォ!?」
「ご覧になってみては如何です?」
言われるままに、えみるは自分の個人端末を取り出し、ディスクをセットする。
SS軍専用の解析コードで判読されたその内容は、タベタ大佐からの正式な命令書であった。
「ご理解いただけましたか?」
モニタを見ながら固まっているえみるに、神父が声をかける。
「リガ・ミリティアの諜報員が、どうしてSS軍の命令書なんて持ってくるんだい?」
「それはそれ。何事にも、裏の顔というものはあるものです」
「ふうん」
興味のなさそうに呟く優。えみるも、げんなりした表情で頷くしかなかった。
「ふふ、そんな顔をしないでください」
神父は、急にマジメな顔つきになって言った。
「あの森の凄惨な姿をみれば、きっとあなた達もその気になると思いますよ」
「この森をみれば、メネシスって人がまともじゃないことはよくわかるね」
「森をこんなにするヒト、えみりゅん許せないりゅーんっ!」
教会では乗り気のなさそうだったえみる、今ではすっかり盛り上がっている。
「リガ・ミリティアの指令は、メネシスラボの破壊だったけど」
「えみりゅんが受けた指令も、そうだりゅん」
「ま、なるべく人死には出さない方向で。ラボだけを狙えばいいかな」
「でもぉ、護衛部隊の相手はどうするの?」
「それは、もちろん」
優、ウイングガンダムで背後を指差した。
「神父さんからもらった、この『機械獣』に役にたってもらおうよ」
そこには、MSよりも遥かに大型の、2体の戦闘メカがあった。
「……なんか、すっごい悪役顔だりゅん、このコたち」
AI搭載の無人兵器である2体を見ながら、えみる。
それぞれクマ、トラの形を模しているそれは、まるで昔のアニメに出てくる悪役メカそのものである。
「じゃあ、このコたちは地上から。私たちは、また空から行こうよ」
ウイングガンダムはバード形態に変形し、空に舞い上がる。ALARICも、変形して後を追った。