GC0083年4月……。地球のDOSV連邦と宇宙のNECコロニー連合の間に 起こった「PCE戦争」が終結してから2年が過ぎていた。その二年の間にNECコ ロニー連合は崩壊し、かわりに台頭してきた「ソニー」「セガ」の二大コロニーの間 で激しい軍事衝突が勃発。その争いは、単なるコロニー同士の小競り合いにとどまら ず、全コロニー、そして地球をも飲み込もうしていた……。
その戦争の裏で蠢く「魔」と戦うための部隊、そして人々の夢と希望を与える劇団 でもある「帝国華撃団・花組」は、地球の南欧圏トルキア地方にある小国「ドルファ ン王国」に降下してきていた。ソニー派であるドルファンにおいて公演を行うこと で、ソニーとセガの戦争に少しでも歯止めをかけようとする、華撃団長官・米田中将 の粋な計らいであった。
しかし、それは表向きの理由であった。華撃団は、このドルファンから、強い魔力 を感じ取ったのである。彼女たちの宿敵である黒之巣会よりも、さらに強大な魔の存 在を。
それが、この長く不思議な戦いのはじまりであった。
第二話「歌い、踊り、舞台にかけて」(1)
ぱたむ。
ふう、と短く息をついて、真宮寺さくらは台本を閉じた。
大きくて澄んだ瞳が、わずかに涙に潤んでいる。
「何度読んでも、いいホンですね」
しみじみと呟く。
「もう何べん読んどるんや、よう飽きへんなぁ」
「さくらって、『かんげきやさん』だよねー」
クッキーをかじりながら、李紅蘭とアイリスが頷き合う。
公演を一週間後に控えた厳しい稽古の合間に、花組メンバーはサロンでひと息いれ ていた。
和気藹々とお茶を楽しんでいるさくら達とは対照的に、神崎すみれとマリア・タチ バナは、少し離れたところで台本に読みふけっている。
「さすがに、あの二人は緊張感が違いますね」
小声で、さくらが囁く。
「そりゃそうやろ。今回の『椿姫の夕』は、あの二人が主役やからなぁ」
「とくにすみれは、すっごく気合はいってるよね!」
すみれはドルファンについてからというもの、今回のヒロインである娼婦マルグ リットの役作りに没頭している。
花組のとって初めての地球公演。しかも、ソニー派であるドルファン王国での公演 である。トップスタアである彼女がはりきるのも頷けた。
「今ドルファンは、セガ派のプロキア公国との戦争の真っ最中やからな」
「私たちがここでお芝居をやることで、少しでも和平のきっかけになるといいよね !」
さくらのいう通り、それは両国にとって良い和平材料になるだろう。もちろんこの 後、花組はプロキアでも公演を予定している。
「プリシラ王女様も見にくるらしいよ!アイリス楽しみぃぃぃ!」
「あのおてんばで有名なお姫さんやな。ウチも楽しみやわぁ」
「おう、ちょっといいか?」
サロンに、桐島カンナが姿を見せた。その脇には、栗色の髪の少女がひとり、思い つめたように立ち尽くしている。
「あら、カンナさん、その子は?」
さくらが声をかけると、
「あ、あの……ソフィア、ロベリンゲといいます」
消え入りそうな声でそう名のり、ぺこりと頭を下げた。
「カンナさん、どういうつもりですの?。部外者をこんなところに入れるなんて!」
すみれが、つかつかと歩み寄ってくる。
「いいじゃねえか、ちょっとくれえ。かてえこと言うなよ」
カンナはそう言うと、事情を説明しはじめた。
「実はこの子な、練習生としてウチに入りたいんだってよ」
「なんですって!?」
「……あなた、ドルファンの人?」
マリアが訊ねると、ソフィアはこくりと頷く。
「歳はいくつなの?」
「16です」
「まだ高校生やん。若いなぁ」
「アイリス、もっと若いもん!」
紅蘭とアイリスのせいで、話がずれそうになるのを、カンナが遮った。
「そりゃあ、アタイだって一度は追い返したさ。それでもコイツ、もう毎日毎日頼み にきてよ。いまどき珍しく根性はいったヤツなんだ」
「でも……まだ高校生でしょう?早いんじゃないかしら」
常識論を口にするマリアだが、横にいるのがアイリスのため説得力がない。
「わ、わたし、何でもやりますから!。どうしても花組で、お芝居の勉強がしたいん です!」
「冗談じゃありませんわ!」
すみれのその剣幕に、ソフィアはビクッと体を震わせる。
「どこの馬の骨とも知れないあなたを、どうして花組にいれなくてはならないの! ?。馬の骨は、そこの田舎娘だけで充分ですわ!」
ビシィッと自分を指差され、さくらは思わず鼻白む。
「すみれさん!今の台詞は聞き捨てなりません!」
「そうだぜ!言い過ぎだ!」
こうして、カンナとさくらとすみれは口論になってしまう。アイリス、紅蘭は面白
そうに成り行きを見守り、マリアは困った表情で見ている。
「あの……やめてください!」
ソフィアが叫んだ。
「あ……すいませんでした……。でも皆さん、私のために、喧嘩なんてしないでくだ さい」
半分泣き出しながら、すみれに頭をさげる。
「ごめんなさい、神崎すみれさん。公演を控えた大事な時に……」
「……」
「失礼しますっ!」
くるりと背を向けると、ソフィアはサロンを駆けでていった。
「あーあ。なーかした」
「すみれ、ひっどーい」
「な、なにをおっしゃいますの!?。あの子が勝手に」
しかし、たちまちはじまる「なーかしたーなーかしたー」の大合唱に、すみれは言 葉を詰まらせる。
「もう……知りませんわ!」
すみれも出て行こうとした時、ちょうどやってきた高村椿と鉢合わせした。
「あ、すみれさん、お客様が……」
「私、急いでいますの!」
と通り過ぎようとした時、椿の後ろにいた長い髪の女性と目が合う。
「!?」
「はじめまして」
にこやかに挨拶をする女性。しかし、すみれはその顔に見覚えがあった。
「あれ、またお客さんですか?」
「なんや、今日は千客万来やな」
さくらと紅蘭は呑気なものだが、マリアもすみれ同様、表情が険しい。
「ここではなんですから、横の部屋にお越しいただけますか、中尉」
「中尉?」
カンナが、不思議そうにマリアに訊ねる。
マリアはそれには答えず、「花組隊員は、全員応接室に集合」とだけ言った。
「PS軍所属、『ひびきの』隊長、麻生華澄中尉です」
華澄がそう名乗ると、花組隊員からどよめきが起こった。
花組は形式上だけとはいえ、SS軍所属である。つまり、目の前にいるのは敵だ。
しかも「ひびきの」といえば、PS軍の新たなエース部隊として噂されるチームで ある。
華澄は、同じくひびきのの隊員である白雪美帆と佐倉楓子を紹介した。楓子はカチ コチに緊張しており、美帆の方は潤んだ瞳で花組隊員達を見つめている。
「それで中尉、お話というのは」
マリアが切り出すと、華澄は訪問の理由を説明しはじめた。
華澄の話は、かいつまんでいうとこういうことだ。
「一週間後の花組公演初日にテロリストの襲撃がある」という差出人不明の密告状 が、現在ひびきのが逗留しているメネシスラボ宛てに届いた。
本来ならドルファン正規軍に報告すべきことだが、密告状の信憑性の問題もある。 事を荒立てないためにもまず花組と直接交渉しようと、華澄たちはやってきたのだっ た。
「テロだと!?。おもしれえ!やってもらおうじゃねえか!」
ガシッと両拳をぶつけ、カンナ。
「そんな簡単なことじゃないわ」
「そうですよ!。私たちだけじゃなくお客さんたちまで巻き込んじゃうことになるで すよ?」
「この密告状、どの程度信頼できるんや?」
紅蘭が訊ねると、華澄は首を振った。
「なんとも言えません。ただ、ドルファン正規軍ではなく、民間施設であるメネシス ラボに送り付けてくるということは、相当軍部の内情に詳しいものの密告であると思 います」
ドルファン正規軍は、年々弱体化の一途を辿っている。グレートマジンガー、 ビューナスAというスーパーロボットに加え、現在はひびきのまで逗留しているメネ シスラボの方が、余程頼りになると密告者は踏んだのだろう。
「なるほど……。では、それなりに信頼できる情報かも知れないわね」
「確かにそうやなぁ。虚でなく実を取るっちゅーことは、やはりこのテロを阻止して 欲しいんやろうし」
マリアと紅蘭が頷きあう。二人に挟まれる形でソファに座っているすみれは、無言 のままみんなの話を聞いている。
「どうされますか、花組の皆さん。公演を中止なさるのなら、私の方からドルファン に掛け合ってもいいですが?」
華澄が訊ねるが、誰一人答えようとはしない。
「申し訳ないですが中尉、即答はいたしかねます。上司にも相談してみないことに は」
「おっしゃる通りですね」
マリアの申し出に、華澄はにこやかに応じた。
「では、じっくりお考えになってください。何かあったら、協力は惜しみませんの で」
「感謝します」
花組全員が敬礼すると、華澄も立ち上がって返礼する。
「あのぅ……ちょっといいですか?」
「ん?どうしたの、白雪さん。あなたも話があるの?」
「あの、あの!。私、花組の皆さんを尊敬しています!。大ファンなんです!憧れ ちゃいます!」
ミーハー丸出しな美帆の発言に、場の空気が凍りつく。
「それで、あの、サインを、頂けたらと……」
ちゃっかりと色紙を取り出す。
「あは、いいよ〜〜〜、アイリスサインしたげる」
とたとたと駆け寄ってきたアイリス、美帆から色紙をもらってたどたどしくサイン をはじめる。
「わあ!ありがとうアイリスちゃん!」
大喜びする美帆を、花組隊員たちは呆気にとられて見つめる。
その時、華澄の通信端末が鳴った。
「はい、麻生ですけど。あ、所長……はい。……はい……分りました」
通信を切ると、華澄は「急用ができましたので、これで失礼します」と席を立っ た。その表情が厳しい。
「ええ〜〜〜っ!?。そんな、まだサインを…………うう、分りました」
しょげかえる美帆。楓子に慰められながら、部屋を出て行く。
「なんか、嵐みてぇな連中だったな」
カンナが素直な感想を漏らす。
しかし、場の空気は重い。
これから、テロ密告に対してどう対処するかを、話し合わねばならないのだ。