サクラ大戦2−2−2(教会編)
さくらとカンナは、王国の南側、シーエアー地区にある教会にやってきていた。
「今更こんなこというのもなんだけどよ。教会なんかで情報は集まんのかなぁ。酒場とかのほうがいいんじゃねえか?」
「でも、紅蘭が『教会ほどいろんな人が出入りしてて、しかも地域に密着しているとこしなかなかない』って」
「ふーん、そんなもんかねえ……」
教会の前に立ちながら、二人。
目の前には、重々しい大きな扉がある。いまどき珍しく木製で、所々に細かい彫模様が施されている。
「な、なんだか入りづらいですね……」
心なし後ずさりしながら、さくらが呟く。
「……あー、駄目だ。やっぱりアタイ、こういう雰囲気苦手だ!」
そう言うと、カンナは突然走り出した。
「あっ!?カンナさん、どこへ?」
「聞き込みは、さくら、おめえに任せた!」
「そ、そんな!!?」
「アタイは、ここの周辺の警戒にあたることにするぜ!!」
カンナは、教会の裏手の方へ姿を消した。
「も、もう……カンナさんったら」
こうなっては、もう後には引けない。
さくらは扉に手をかけると、ゆっくりと力を込めた。
ギィ、という予想通りの音ともに、扉が開いていく。
がらんとした礼拝堂が、さくらの目に飛び込んできた。
「し、失礼します」
中に入ると、ひんやりした空気が心地よかった。ステンドグラスから差し込む光も美しい。
人の姿は、みえない。
「あの、誰かいらっしゃいませんか?」
反響するさくらの声。だが、返事はない。
「……お留守かしら……」
「いえ、ここにいますよ」
その声は、さくらの横……つまり、扉のすぐ傍からかかった。
ビクッとさくらが振り向くと、メガネをかけた神父がひとり、にこやかな笑みを湛えたまま立っていた。
「あ、い、いらっしゃったんですか」
「ハハハ……失礼しました。驚かせてしまったようですね」
実際、さくらは驚いていた。
自分に気配を気づかせなかったというのだろうか、この神父は。
「これはこれは、異国の方ですね。今日は、なんの御用でしょうか?」
そんなさくらの疑問をよそに、神父の物腰はあくまで柔らかい。
「あの、私、真宮寺さくらといいます」
「ほぉ、あなたが……あの」
メガネの奥の瞳が、細められた。
「私のこと、ご存知なんですか?」
「ええ、もちろん。歌劇団のスタアではありませんか」
「そ、そんな、スタアだなんて」
さくら、真っ赤になって照れる。
「今回の公演、私も日曜礼拝さえなければ観覧にいきたかったのですが、残念です」
「実は、その公演に関連して、お聞きしたいことが」
と、そこまでいいかけて、さくらは紅蘭の言葉を思い出した。
(どこで聞き込みするにしても、密告の内容をどこまで話すかっちゅーのが問題になってくるなぁ)
(テロ予告があるなんてベラベラしゃぺろうもんなら、だーれも公演みにきてくれへんよ)
「?どうなさいました?」
「い、いえ。別に」
危ない危ない、とさくら。この神父のペースに巻き込まれて、すべて話してしまうわけにはいかない。
「あの、神父さまの目からみて、このドルファンって、どんな国ですか?」
「はあ、どんな国、とは?」
「私たち、はじめて地球で公演するでしょ?。だから、ちょっと不安なんです。私たちのお芝居で、喜んでもらえるのかなー、なんて」
「ハハハ、意外ですねえ。やはり、あなたほどのスタアでも緊張するものなのですか?」
逆に質問され、またまた照れてしまうさくら。
「ドルファンは、いい国ですよ。暮らしも豊かですし、活気に満ちています。ただ……」
「ただ?」
「脆い、ですね」
にこやかな表情のまま、神父は言った。
「この国は、非常に危うい立場にあります。政治的にも、軍事的にも……」
「……」
「ですが、国民はそれには無関心です。城塞に守られている以上、都市部は安心だ、という余裕があるのでしょうねえ」
しかし、と神父の話は続く。
「往々にして、事件とはその内で起こるものなのです」
「じゃ、じゃあ神父さまは、この城塞都市の中で、何か起きると?」
「神ならぬ身には、なんとも」
神父は、ゆっくりと首を横に振った。
「ご質問は、それだけですか?」
「は、はぁ……まあ」
曖昧な返事になってしまった。
「では、今日のところはお引き取りを。申し訳ありませんが、これから来客があるので」
カンナは、教会の周りの街道をぶらついていた。
怪しいものがいないか、あたりを見廻していると、セーラー服にマントを羽織っている、奇妙な少女の姿を見つけた。
少女は、道行く人々を呼び止めては、写真をみせて何かを訊ねている。
通行人は決まって首を横に振り、少女はぺこぺこと頭を下げる。その繰り返しだった。
カンナは、しばらくその光景をボーッと見つめていた。
その姿を認めた少女が、ゆっくりと歩いてくる。
「あの、こんにちわ」
「よお」
ちょっと手をあげて、カンナは答えた。
「すいません。この写真の人を探しているんですが、ご存知じゃないですか?」
そこには、長い黒髪の少女が写っていた。
「うん?こいつは……」
カンナ、首をかしげる。
「……いや、違うか。アイツはこんな呑気そうなツラしてねえからなぁ」
少女の表情が、一変した。
「それ、どういうことですか?」
「あ?ああ、いやな。ちょっと知った顔に似てたから」
少したじろぎながら、カンナ。
「誰に?誰に似ているんです?」
「東鳩不敗、マスターアヤカってヤツにさ」
「何故、あなたは綾……いえ、マスターアヤカのことを知ってるんですか!?」
「別に、知り合いってわけじゃねえぜ。ただ、格闘技やってれば、こいつのことを知らないヤツはいねぇよ。……ん?そーいやお前さんも、どっかでみた顔だなぁ……」
カンナと少女は、お互いの自己紹介をすることになった。
「そうかぁ!おめえが新しいキング・オブ・ハートか!」
嬉しそうに、カンナが吼える。
少女の名は、松原葵。LEAFのくまさんチームに所属するファイターで、現在のコロニー格闘技チャンピオン「キング・オブ・ハート」であった。
「こんなとこで逢えるなんてなあ!教会に来てよかったぜ!」
「私も、ドルファンで帝国華撃団の方に逢えるとは思っていませんでした」
少し照れながら、葵。
「桐島流で有名な桐島カンナさんなら、マスターアヤカの顔を知っていても、不思議じゃありませんね」
「まあな。アイツとは、一度手合わせしてみてえと思ってたからなぁ」
ところで、とカンナ。
「来栖川綾香は、姉といっしょに行方不明になったらしいじゃねえか。だから探してるのか?」
「……ええ、まあ」
「ふーん。おめえひとり地球に降りて探すなんて、回りくどいことするなぁ。LEAFだったら、軍隊まるごと動かして探せばいいのによ」
曖昧に頷く葵。その表情は、どことなく淋しげだ。
「おめえ、今どこに泊まってるんだ?」
「メネシスラボってところです」
今度は、カンナが驚く番だった。
「……偶然だなぁ。今、あたいの仲間がそこに行ってるところだぜ」
「え?どうしてですか?」
「ちょっと、野暮用でな」
それ以上、カンナは語らなかった。
教会の方から、真宮寺さくらが大声でカンナを呼んでいる。
「おっ、終わったみてえだな……じゃあ、アタイはそろそろいくぜ」
カンナ、葵に握手を求める。
「おめえとは、また逢えそうだな?」
「はいっ」
「そん時に時間あったら、ぜひ手合わせを頼むぜ」
カンナは葵に別れを告げ、さくらの方に走っていった。