GC0083年4月……。地球のDOSV連邦と宇宙のNECコロニー連合の間に 起こった「PCE戦争」が終結してから2年が過ぎていた。その二年の間にNECコ ロニー連合は崩壊し、かわりに台頭してきた「ソニー」「セガ」の二大コロニーの間 で激しい軍事衝突が勃発。その争いは、単なるコロニー同士の小競り合いにとどまら ず、全コロニー、そして地球をも飲み込もうしていた……。
現在、SS軍に対して優勢であるPS軍は、それを更に絶対的なものにするべく、 部隊の新設を行った。PCE戦争で伝説的な活躍を残し、英雄部隊として名をはせた 「ときめき」の後継となる部隊、「ひびきの」である。
そのメンバーである麻生華澄、寿美幸、佐倉楓子、白雪美帆は、地球・南欧圏トル キア地方の親ソニー派「ドルファン王国」に出向するため、陽ノ下光らと別れて地球 に降りて来ていた。彼女らはドルファン軍に合流し、親セガ派であるプロキア公国と の戦争に参加する任務を命じられていた。
軍の協力機関である「科学要塞研究所」通称「メネシス・ラボ」に逗留している彼 女らの元に、一通の手紙が送られてくる。
それが、この長く不思議な戦いのはじまりであった。
第二話「俺は 涙を流さない」(1)
ドルファン王国。カミツレ地区森林内にそびえ立つ、科学要塞研究所。一般には所 長の名をとって「メネシス・ラボ」と呼ばれている。
その司令室に、麻生華澄、寿美幸、佐倉楓子、白雪美帆、ハンナ・ショースキー、 リンダ・ザクロイド、そしてメネシス博士が集っている。
一同、難しい表情で、それぞれの席についたまま身じろぎもしない。
「……佐倉さん。もう一度、手紙を読んでみてくれる?」
「ひびきの」のリーダーである華澄が、横に座っている楓子を促した。
楓子はこくりと頷き、可愛らしい声でおどろおどろしい文面を読み上げた。
『一週間後にフェンネル地区シアターで行われる、帝国歌劇団・花組の舞台初日に、 何者かの襲撃がある。注意されたし』
「差出人は御座いませんの?」
頬杖をついたまま、リンダが訊ねる。
「ええ、ありません」
「これは……つまり」
「密告状ね」
メネシス博士が、面白くもなさそうな口調で面白くないことを言う。
「でもさー、なんでココに届いたのかなー? こういうのってさー、警察とか軍とか にくるんじゃないのかなー、ふつー?」
緊張感に欠けた口調で、美幸がもっともな疑問を口にする。
「そういえばそうだね。ここは軍に協力しているっていっても、あくまで民間だ
し……」
「それは簡単だわね」
ハンナの疑問を、メネシスが遮った。
「というと?」
「今、このメネシス・ラボが、ドルファン最強の戦力を保有しているからよ」
ドルファン最先端の科学技術を持つこのラボは、巨大コロニー「レッド」との提携 により、「グレートマジンガー」「ビューナスA」という2体のスーパーロボットを 保有している。旧式のMSしか配備されていないドルファン正規軍とは、比べ物にな らない。
「しかもこの国の騎士団は、年々弱体化の一途を辿ってますしねぇ。陸戦の雄、なん て言われていた頃が懐かしいですわ」
鼻で笑いながら、リンダ。
「なるほど……このラボの方が、正規軍よりも頼りになると判断されたということで すね、密告者さんは」
感心したように頷く美帆。密告者にも「さん」をつけるところが、彼女らしい。
「おまけに、今は美幸たちもいるしねー」
「メネシス博士、これは軍部に報告すべきでしょうか?」
華澄が訊ねるが、メネシスは「さぁ。好きにすれば?」と素っ気無い。
「アタシには、どこの誰がなにをしようが興味ないね」
「確かにそうですわ。私も、観劇には興味ありませんし」
「そ、そういう問題じゃないと思いますぅ」
「そうですよ!」
美帆が、珍しく大声をあげる。
「あの花組の公演に、もし万が一のことがあったりしたら……私、がっかりです!」
その手には、一枚のチケットがしっかりと握り締められている。
「あー、そっかー。みほぴょん、帝国歌劇団の大ファンなんだっけ」
「せっかくマリア様をこの目でみれると、楽しみにしていましたのに……」
くしゃくしゃになったチケットに目をやり、美帆。
「い、いぇ、だからそういうことじゃ……」
楓子がなおも何か言おうとするが、すでに違う世界にイッている美帆には届かな かった。
「セガとソニーは不倶戴天の敵同士。こんな機会でないと、お芝居みられないもん ね」
「そこが問題なのよ」
華澄が強い口調で言葉を挟む。
「帝国華撃団は、対黒之巣会戦が任務だから実戦にこそ出てこないけど、れっきとし たSS軍の一部隊なのよ?」
「……あ」
「そ、そうでした」
PS軍相手の実戦には(公式には)一度も出撃していないとはいえ、帝国華撃団の 所属はSS軍だ。そして、華澄たち「ひびきの」やハンナたちの「ドルファン」も、 PS軍所属なのである。
SS軍への襲撃予告を、PS軍が密告する。形式上はそういうことになってしまう。何かの謀略と勘ぐられても仕方がない。
「それでしたら、やはりその密告状を軍部に届け出て、判断を委ねるべきじゃありま せんこと?」
リンダの言葉も、もっともである。
華澄は、しばし考えに耽った。
「……いえ。やっぱり、まずは私たちだけで花組に話しを通しにいきましょう」
「あら、なぜですの?」
「この密告状の信憑性の問題ね。単なる悪戯ということも考えられるし、事を荒立て ないほうがいいと思うの」
「そうですね。ドルファン正規の部隊ではない私たちが話をしにいくだけでしたら、 あちらも素直に聞いてくださるかも知れません」
「もしイタズラだったとしても、大事にならずに済みますし」
美帆と楓子も賛成する。
「なるほどぉー。んじゃ、今からすぐにいこうよ!」
「そうね。早いほうがいいわ」
ひびきのの面々、立ち上がる。
「あ、面白そうだなあ。じゃあボクも」
と、ハンナも後に続こうとするが、
「あんたはダメよ」
メネシスに服を捕まれてしまう。
「え〜〜〜っ!。なんでだよっ!?」
「そうよ、ハンナさん。最終訓練が、まだ終わってませんことよ」
「う……そ、そうだっけ」
残念そうに俯くハンナに、美帆が「安心してください」とにっこりと微笑みかけ
る。
「私が、ハンナさんの分までサインもらってきてあげますから!」