GC0083年4月……。地球のDOSV連邦と宇宙のNECコロニー連合の間に起こった「PCE戦争」が終結してから2年が過ぎていた。その二年の間にNECコロニー連合は崩壊し、かわりに台頭してきた「ソニー」「セガ」の二大コロニーの間で激しい軍事衝突が勃発。その争いは、単なるコロニー同士の小競り合いにとどまらず、全コロニー、そして地球をも飲み込もうしていた……。

 現在、SS軍に対して優勢であるPS軍は、それを更に絶対的なものにするべく、部隊の新設を予定していた。PCE戦争で伝説的な活躍を残し、英雄部隊として名をはせた「ときめき」の後継となる部隊、「ひびきの」である。



第2話「信じて欲しい 君の涙を見たくないから」(1)


 PS軍施設。特殊兵器開発研究所。
「システムブレイカー、ダウン!」
「訓練中止!!。T−LINK強制切断!」
「システムからの逆流を防いで!。パイロットの生命維持を最優先っ!」
 それまでは機械の駆動音しかしなかった特機実験室に、けたたましい警報と科学者たちの声が響き渡る。
 それよりも、更に大きな声で。
「ああっ、やってらんねえ!!!」
 赤井ほむらが、その喧騒を引き裂くようにして怒鳴る。
 たくさんの配線に繋がれたヘルメットを脱ぎ捨てると、腰まである長い髪が零れ出す。それを鬱陶しげに振り払うと、ドスドスっともうひとつの実験ポッドのところに歩いて行く。
「花桜梨!てめえ、どういうつもりだ!?」
 八重花桜梨は、ほむらの声に反応せず、ポッドに横たわったまま目を閉じて荒い息をついている。
「おい、聞いてるのかよっ」
「やめなよ、ほむら」
 そう言って肩を叩いたのは、一文字茜だった。彼女も額に汗を滲ませ、疲労の表情を浮かべている。
「八重さんのR−3のシステムは、私のR−2やあんたのR−1以上の負担がかかるんだから」
「そんなことはわかってらあ!」
 苛立ちを爆発させるように、ほむら。
「だからこそ、花桜梨のR−3がSRXの要なんじゃねえか!。こいつのT−LINKが一定値にまでいかねえと、ヴァリアブルフォーメーションは完成しねえ!」
「それはそうだけど、だからって焦ったって仕方ないじゃないか!」
「二人とも……やめて」
 弱々しい声で、花桜梨が割って入る。よろよろと身体を起こし、申し訳なさそうに二人を見つめる。
「私が悪いの……。私が、ちゃんとやれてれば」
 そういって声を詰まらせる花桜梨に、さすがのほむらも何も言えなくなる。
「ちくしょう……」
 花桜梨から目をそらし、ほむらは呟く。耐え兼ねたように駆け出し、特機実験室を出て行く。
「ごめんね、八重さん。ほむら、いつもあんなんじゃないんだけど」
「いいの。わかってるから」
 微笑もうとして、花桜梨は失敗した。
 それを見ないふりをしながら、茜は呟く。
「……あのコ、今、どうしても強い力がいるんだよ」
「ご家族のことだね」
 黙って頷く茜。
 赤井ほむらの父親は、コロニー公社勤務の技術者であり、母と弟とともに転勤を繰り返している。彼女は、コロニー「ひびきの」で果樹園を営んでいる祖父母のもとで育った。
 しかし、今から一週間前。
 父たちの消息が、突然途絶えた。
 ほむらの父が勤務するコロニーが、PCE軍の残党「アヤサキ=フリート」によって占領されてしまったのである。当然、父と母、弟の消息は不明。
 報道では、「ソニーとセガに強い敵意を持つアヤサキ=フリートは、コロニーの住民をすべて抹殺した」という悲観論もあった。ほむらはもちろん信じていなかったが……。
「あの子、ゴッドリラーのテストパイロットにまでしてもらってさ。R−1じゃ、アヤサキ=フリートを相手にするには不足だからって。伊集院メイにアタマさげたんだよ、あの子が」
 信じられる?と茜が笑う。花桜梨も、つられて思わず笑う。
「一文字さん……強いね」
「え?」
「あなただって、行方不明のお兄さんを探しに行きたいんだよね。それなのに、私を責めないから」
「八重さんは……よくやってるよ」
 茜は、照れくさそうに鼻をかいた。
「それは、あの子だってわかってるんだ。だから、ほむらのことを悪く思わないであげてよ」
 花桜梨が、こくりと頷こうとした時。
 二人の携帯用通信端末が、けたたましく鳴り響いた。
「非常コール?」
「出撃なのかしら」
 二人は顔を見合わせると、急いで旗艦の停泊する軍港に向かった。


 コロニー「ひびきの」軍本部。
「また、失敗じゃのう」
 「ひびきの」の総責任者である爆裂山和美大佐は、大きな唸り声をあげた。
「はい……」
 白衣の男が、申し訳なさそうにうなだれる。
「やはり、R−3のパイロットには、ニュータイプではなく、サイコドライバーの方が向いているのではないのか?」
「純粋にT−LINK能力だけを考えたらそうでしょうね。事実、赤井ほむらにはニュータイプの素養はほとんどありません」
「花桜梨くんは、優れたニュータイプであり、しかも念動力の持ち主でもある。確かに希有な人材ではあるが……」
「二兎を追うものは一兎も得ず、とおっしゃりたいので?」
 男の言葉に、爆裂山は大きく頷く。
「しかし、八重少尉ほどの能力の持ち主は、我が軍にはおりません。川澄舞、イリス=シャトーブリアン、そして姫川琴音……彼女ら生っ粋の『サイコドライバー』には及びませんが、いずれも他陣営。R−3を稼動状態にまで持っていけるのは、八重少尉だけです。パイロットの代えはきかないと存じます」
「では、いったい何が問題なのじゃ?」
 男の理屈っぽい言い方にうんざりしたように、爆裂山大佐は先を促す。
「八重少尉の本当の実力は、あんなものではないはずです」
 男は、一通の報告書を爆裂山に手渡す。
「これは?」
「ムラサメ研時代の、八重少尉のNT能力テストの結果です」
「……むう……」
 報告書に目を通す爆裂山の口から、思わず感嘆の声が漏れる。
「かつての藤崎詩織をも凌ぐニュータイプ能力を秘めているというのか、あの子は」
「ええ、もちろん。強化の結果、彼女の能力はニュータイプLV.5にまで上がったはずなのです」
 そのニュータイプ能力があれば、T−LINK能力が足らずとも、充分R−3をコントロールできると、男は力説する。
「しかし、八重くんの能力は、LV.2がせいぜいと聞いておるが?」
「問題はそこなのです」
 話に熱が入ってきたのか、男は思わずデスクをどん、と叩く。
「彼女は、何らかの理由で心を閉ざしている。それが、能力の解放の妨げになっています」
「それでは、君ら科学者というよりもカウンセラーの領分じゃな」
 皮肉を込めて、爆裂山は言う。
「ええ、まったく」
 それを意に介した風もなく、男は不気味な微笑みを浮かべる。
「しかし、悠長に人生相談などしている暇は、我々にはありません。鬼どもや異世界人は、すぐそこにまで迫ってきているのです」
 男の言葉に、爆裂山は渋々頷く。
「そこで、彼女には少々荒療治を施します。黙認していただけますね?」
「すでに紐緒博士から連絡は受けておる」
 憮然とした表情で、爆裂山。
「ワシは、こんな作戦には反対じゃ。PS軍最強の戦力をこんな風に使うとは」
「我が軍は、もうSS軍に対してはほぼ勝利を収めていますよ。噂のセンチ=ベルも、TLS2で充分対抗できます」
 問題は、セガなどではない。それよりも強大な敵が、背後に控えているのだ。
「人類に逃げ場なし、か」
 爆裂山はそう呟き、部下であると同時に可愛い生徒でもある隊員たちに、心の中で詫びた。


2−1−2