2−2エピローグ
「…それで、RFDの異常はおさまったのですか?」
Key本部では、水瀬秋子長官が、問いかけている。
「は、はい。もう正常な動作に戻っています。ハッキングを仕掛けてきた緒方英二も、もう存在していません。ただ…」
「ただ…?」
「…Kanonの6人も、システムから追跡できる範囲には存在していません」
「そうですか、それは困りましたね」
秋子は、相も変わらず微笑みをたたえながら、そう言う。
もちろんその声からは、決して困っているようには感じられない。
「いったい、どうなっているんですか?過去に向かったと言っても、仮想空間の中のはずです。システムから完全にモニターできるはずです。なのに、これではまるで…」
「本当に、過去に向かったみたい、ですか?」
「…はい。そうとでも思わないと……みんなの反応が消えたことの説明がつきません…」
モニター上に映るあらゆる数値が、Kanonのメンバーが、存在していないことを告げている。
この世界から、少なくとも、Keyにあるすべての機材で追跡できる範囲から、彼女たちが消えたとを示している。
「この世界で時間をさかのぼる事なんて、できませんよ」
相変わらず表情を変えないまま、秋子はそう言う。
そして、その言葉に戸惑うオペレーターに、さらに言葉を付け加えた。
「大丈夫ですよ。可愛い子には旅をさせろといいますし」
この間、一度も崩れることのなかった秋子の微笑みの前に、オペレーターも、それ以上不安の言葉を口にすることはなかった。
(あの子達のこと、お願いしますね。グエンディーナの魔女さん)
第2話『Little Fragments』
エピローグ
「う…ぅん……」
「あ、目が覚めましたか」
「……あぅ? ここ……どこ…?」
真琴は、風の吹く丘の上で目を覚ました。
しかしそこは、記憶にある丘ではない。
それどころか、この丘は、真琴達の持っている地図の何処にも存在しない。
最初に目に入ったのは、舞い降りてきた真紅の翼。
しかしそれは、夕焼けに染まったわけでもなければ、血に染まったわけでもない。
そしてもちろん、いつか見たあの羽ではない。
「真琴が最後ですよ。これで全員、目を覚ましました」
「あの、名雪さんがまだですけど…」
「名雪ちゃんが起きるのを待ってたら、お腹がすいちゃうよ〜」
「……それはみさきだけ。でも、日は暮れるかもね」
「だから、これで全員です」
周りの声に気がついて辺りを見回すと、既に、美汐,栞,みさき,雪見は目を覚ましていたようだ。
……ついでに、名雪は、それはもー気持ちよさそーに寝ていた。
「あぅ…えっと……どうなったの?」
「真琴、私たちもほんの数分前に目覚めたばかりなので…」
「いったいどうなっているのかは、私達が聞きたいわよ」
「少なくとも、目的地とは別の場所に来てしまったことだけは確かみたいですけど」
美汐、雪見、栞が立て続けに言う。
栞の言葉を聞いて、辺りをきょろきょろと見回していた真琴は、何かを忘れてる気がして、声を上げた。
「あぅっ、そーいえば、あの赤い羽は?」
「あそこにいますよ」
真琴は、美汐の指し示す方向を見る。
そこには、真紅の翼を持った、今まで見たことのないタイプの、女性的な機体があった。
気を失う前の、ほんのわずかの時間だけ見かけた機体に酷似している機体が。
「…あれ、寝ちゃう前にも見た気がする…」
「真琴もそう思いますか。間違いはなさそうですね」
「あぅ?」
「私達が何故ここにいるのか、その鍵が、あの赤い機体じゃないかということです」
再び一同はその機体の方を見る。
すると、今まで全く動きを見せなかったそれが、急に翼を動かして飛び立った。
「あぅ? 逃げた?」
「…違うと思うよ。なんとなくだけどね」
「みさきさんの言うとおりだと思います。
まるで、私達が目を覚ますのを待っていたみたいですよね」
「そして、私達をどこかに案内しようってことかしら?」
雪見の言葉に、一同はいったん考え込むが、
「いってみようよ。ご飯あるかもしれないし」
みさきのその一言に、苦笑しつつ頷いた。
「そうね。ここでこうしていても始まらないわね」
「……うにゅ?」
「名雪さんも起きたみたいですし、あの機体を追っていきましょうか」
こうして、過去へと向かったはずのKanonの6人は、大幅に予定がずれて、どこともしれない場所で彷徨うこととなった。
だが、この回り道こそが、彼女たちの求める何かへ至る道だということに、まだ誰も気がついてはいない…。