北へ。2−1


『どうして、君たちにはできないのかな?』
 スピーカーからは、叱責の声が投げかけられる。
 エラーを表す赤いランプは点滅したままであった。
『もう一度最初から、起動過程を省略した基本パターンを16ターンまで行ってもらう』
 男が椅子に座り直して周りのスタッフに合図を送る。
「準備完了です」
『よし、全員始めてくれ』
 しかし、すぐに赤いランプが点滅を始める・・・。はたから数えても一秒間に16回は確実である。あごをさわりながら、男は苛立ちを押さえきれないようでいた。
『全員マシンを降りて、教官室にあがってこいっ!』
 そして、周囲の電源が落とされ一面に闇が広がっていった……。



第二話「MOVE ON!」(1)




 ここは、はど村にある 『white illumination』。
 『white illumination』は、独立コロニーであるレッドカンパニー管轄のパイロット養成学校の名称である。
 一般兵の育成を目的とはせず、エースパイロットとなるための英才教育をほどこす、トップ達が集まる特殊機関である。『white illumination』の称号を手にして卒業した生徒は、輝かしい戦績を残しているのであった。
 ここにいる全ての人間がトップを狙っていた。
 この学校の主任教官であるタカハシは、かつてFC軍で高性能戦闘機「スターソルジャー」を駆った歴戦の勇士である。1秒間に16回も連射をするというそのテクニックから「名人」の称号を与えられている。
 その英雄も今では前線を退き、若手の育成に全てをそそぎ込んでいた。

 教官室の扉が、勢いよく叩かれた。
『挨拶はいい、入ってきたまえ』
 扉がスライドし、三人の少女が教官室に入ってくる。
 3人とも小柄で、歳にして15,6歳といったところであろうか。
『君たちがここにいることは、他の誰よりも才能があることの証、といっても過言ではない』
 ファイルに一通り目を通すタカハシ、
『現に、これまでの訓練の結果が全てを示している、過去の『WI』の卒業生と比べても恥ずかしくない成績である』
 ファイルを机に投げ置いたためにビシッと音が響く。
 その音に3人の少女は、改めて背筋を伸ばした。
『であるのに、模擬演習によるマシンの操縦もままならないのはどうしてかね?』
 ため息をつくタカハシ。ショートカットの少女、川原鮎の顔をじろりと睨む。
『川原訓練生、キミは何故ここに入ったのかね?』
「はい。私は、芸能界に入りたいからです。そのために緒方プロダクションにどうしても所属したいのです」
『緒方プロダクションか、確かにあそこは戦術芸能プロダクションだな。唄って戦えるアイドル、緒方理奈でも目指す気かね?』
「はいっ」
 耳通りの良いはっきりとした声が部屋に響く。
『春野訓練生、君はどうかね』
 かるくウェーブのかかったふわふわの髪をした少女に目をうつすタカハシ。
「わたしは、小さなお料理屋さんを開きたいです」
『……』
 頭を抱え込むタカハシ、
『愛田訓練生は?』
 気を取り直したようにして背が一段と小さいおかっぱの少女の顔をみる。
『あ、あ、あたしは〜、び、美瑛の牧場を・・・」
 タカハシはくるりと背を向けて肩を震わせていた・・・。
(なぜこのような少女達がここに来ているんだ?裏に何かあるのか?)
 三人の少女達はお互いに顔を見合わせてばつが悪そうにしていた。
『全員教室にて待機しているように、おって指示をだす・・・』
 拳をぎゅっとにぎりばがら三人にはっきりと告げる。
「はいっ!」

 少女達がその部屋を去ったあと、タカハシはひとり考えを巡らせた。
 机の上に投げ出されたファイルに、もう一度目を通す。
『たしかに優秀な子達だ、しかしそれぞれにどうしようもない問題があるのだな・・・』
 ショートカットの子の写真を見て、
『川原鮎、直感力にかけては他の追随を許さない能力を持っている、そのセンスはすばらしいハーモニーを奏でるかのようだが・・・、操縦桿を全く握ろうとしないのは何故だ?』
 次のページをめくるとふわふわの髪の子の写真があった。
『春野琴梨、すべての能力が平均をはるかに超えているのではあるが、にじみでるのんびりフィーリングのためにすべての行動が1テンポ遅れてしまうのが欠点か。これは戦闘において致命傷になる可能性がある、もともと戦闘向きではないのにどうして彼女が・・・。しかも、あのマジンガーZのバイロットだと?。いったい上は何を考えて……』
 一枚めくっておかっぱの子のページが開かれる。
『愛田めぐみ、一学年下であるのにそのがんばりにより卒業対象生に抜擢されたのだが・・・、メカアレルギー?なんでそんな子がロボット兵器のパイロットに?』
 首をかしげるしかないタカハシであった
『あの方に相談するしかないかもしれんな』
 窓を開いて外を、空を見上げるタカハシ、そう、「北」をみつめていた

−教室−

琴梨「めぐみちゃんのアレルギーも大変だよね」
めぐみ「気分の問題なんです。どうしてもメカに囲まれたコックピットのなかってダメなんですよぉ」
鮎「たまに、そういう人いるよね」
琴梨「そういう鮎ちゃんは、操縦桿を握ろうともしないじゃない」
めぐみ「どうしてなんですか?。運動神経もいいのになぁ。あこがれちゃうなー」
鮎「(バツが悪そうに)私ね、イカが嫌いなんだ、操縦桿ってイカの足に見えるんだよ」
めぐみ「そ、そうなんですか」
鮎「(落ち込んだように)教官は、それで呆れて怒らなかったのかな?」
琴梨「そんなことないよ。ちょっと機嫌が悪かっただけだよ」
鮎「ところでさ、琴梨ってどうしてここにきたの?戦いが好きってわけでもなかったのに」
琴梨「え〜、鮎ちゃんを放っておけなかったたんだよー」
鮎「あは、ありがと。でも、本当のところはどうなの?」
琴梨「……うん、お母さんが……。どうしてもWIにいけっていうから」
めぐみ「あれ?。あたしも陽子おばさんに言われて、ここに来たんですよ」
鮎「私も琴梨のおばさんに勧められたんだよね、『養成所にはいるなら「WI」がいいのよ』って」
 三人、それぞれの顔を見あわせる。。
三人「……なんでだろ?」

−?−

 真っ暗な司令室。
 コンソールの明かりが、二つの人影を浮かび上がらせている。
 ひとりは、特徴的なあごのタカハシである。
 もうひとりは、長い髪を束ねている人物。声も替えられているためにその主が男であるのか女であるのかも不明。

タカハシ『こんな機体が、あるのですか?。オーラバトラーや魔装機に似ているよう
ですが……このようにコンパクトな機種は、見たことがありません』
???「その質問に答える必要はありません」
タカハシ「はぁ……」
???「テストは充分に行ってます。実戦にも充分耐えうると確信しています」
 モニタには、龍神丸と戦神丸のデータが映し出されている。
???「両方とも、特殊なコントロールインターフェイスを使用した機体です。これなら、川原訓練生の操縦管アレルギー、愛田訓練生のメカアレルギーも解決することでしょう」
タカハシ『はあ、しかし何故彼女達なのですか?。WIには、ターニャという優秀なのも育っていますが』
???「あなたは指示に従い、彼女たちを導いてくれればよいのです」
タカハシ『……了解しました』
???「最終試験の方法として、用意した物がある。画面を……」
タカハシ『こ、こんな方式を・・・よろしいのですか?どのような結果であってもかなりの損害になると思われますが?』
???「かまいません。奇跡を求める旅は、そこから始まります」
 声の主、部屋から去る。ふと部屋に明かりがともる。
タカハシ『こんなことがあっていいのだろうか……』


−最終試験直前−

『以上が最終試験の課題となる』
 モニターパネルの電源が落ち、タカハシが振り返る。
『搭乗機体を発表する。まず、春野訓練生』
「はい」
 琴梨が一歩前にでる、
『訓練同様にマジンガーZに搭乗してもらう』
 やっぱり、と苦笑いする琴梨。
『川原訓練生は、龍神丸に、愛田訓練生は戦神丸の搭乗してもらう』
「はいっ」
「はーい」
『川原訓練生には課題を与えていたのだが・・・」
 鮎の方を心配そうにのぞき込むタカハシ。
 鮎は、満面の笑顔でそれに答えた。
『うむ、大丈夫そうだな』
 満足そうに頷くタカハシ。
『他に何か質問は?』
 三人の少女、それぞれ顔を見合わせる。
『ないようだな、それでは早速始めるとしよう、各自の奮闘に期待する!』
 タカハシの号令で全てが動き出そうとしていた。
 緊張が走る。
『では、『white illumination』春期卒業試験を開始する』
 北の地の長い一日が始まろうとしていた。



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