サイド3の「グランディア」を後にしたアルビオンは、アヤサキ=フリート追撃前 の補給を行うべく、月のフォン=ブラウンに滞在していた。
「しっかし、派手に壊したね、これは」
 めちゃめちゃに損傷したGP−01を見て、アナハイムの技術者である若先生は 言った。
 フォン=ブラウン市にあるアナハイムのラボに、センチ=ベルの全員と、里村茜、 柚木詩子、そして日野森あずさが集合していた。
「あのう……どうして若先生が、ここにいるんですか?」
 GP−01の前でうんうん唸る若先生に、真奈美が尋ねる。彼は、グラナダ工場の 勤務ではなかったのか。
「それは私が説明するわ」
「つ、つぐみさん?」
 そこには、若先生の優秀な助手を自認する槙原つぐみまでもがいた。
「私たち、νガンダムの納入がすんで暇になっちゃってね。社の方から、GPシリー ズの面倒をみてくれって、頼まれたの」
「そういうことさ。これからもよろしくな、杉原さん」
 にこっと微笑む二人に、真奈美、ぎこちなく微笑み返す。またボールに乗せられな いと良いのだが。
「あの、ウチのガンダム……すぐに直るんでしょうか?」
 それまでずっと俯いていた夏穂が、たまりかねたように訊ねる。
「バランサー部分は生きてるから、直すにはさほど時間はかからないさ。むしろ、宙 間戦闘装備への換装作業の方に時間がかかるだろうね」
「宇宙装備……?」
「そう。GP−01の真の姿。『フルバーニアン』さ」
 自信満々に、若先生。
「フ、フルバーミヤン!?」
「詩子、恥かしいからやめてください」
 じゅるじゅるとよだれを流しそうになる友人に、茜が冷静にツッコむ。
「……それで、どのくらいかかりますか?」
 咳払いをひとつして、艦長が訊ねる。
「三日ってところですね。インチャのタベタ大佐からもそう言われていますし」
「三日か。まあ、妥当なところじゃないか?」
「そうね。その間は、ゆっくりしましょう」
 千恵の言葉に、美由紀も相づちをうつ。
「さんせー!!!ねえねえ、ショッピングいこうよ!!しょっぴんぐううう!!」
「お前はそればっかりだな」
 勢いよく手をあげる明日香に、呆れたように千恵が笑う。
「あ、そうだ!」
 ぽむ、と手を叩いて、真奈美。
「前に約束してたお茶会、ここでやりませんか?」
「あ、そうだったね。真奈美ちゃんに頼まれた紅茶とおせんべ、あるんだった」
「まだ、里村さん達の歓迎会もやってないもんね」
「え?やってくれるの?。嬉しいなあ」
 あずさ、弾けるような笑みを見せる。
「どうかな?艦長くん」
「うん、いいんじゃないかな。パイロット同士、打ち解けておくのも任務のうちだ よ」
 艦長は、微笑んで了承してくれた。
「わおおんっ♪」
「ほら、つかさちゃんも喜んでるよ。つか……ええええええええええっっっっっ!? !?!?!?」
 絶叫するあずさ。
 そこには、ナデシコと一緒に地球に帰ったはずの榎本つかさの姿があった。
「ど、どうして!?」
「んー、だって、こっちの方が面白そうだったから♪」
 あっけらかんと、つかさ。その愛くるしい瞳が、くるくるとまわる。
「面白そうって……涼子さんの許可は?」
「わおおお〜〜〜んっ♪」
「ごまかすなあああっっ!!」
 思わず怒鳴るあずさ。つかさ、ささっと茜の後ろに隠れる。
「まあ、いいんじゃないですか。戦力が増えるのは」
 いつもと変わらぬ調子で、茜があずさをたしなめる。
「そうだな。特に問題はないか」
「Pia2のエースが二人もいれば、アヤサキ=フリートもすぐにやっつけられます よ!」
 艦長と真奈美の言葉に、他の面々も頷く。あずさ、そのセンチ=ベルの適当さに戦 慄する。
「はぁっ……なんか私ひとりで怒ってるの、バカバカしくなってきた」



第二話
「いてもいなくてもやってくるUFO」(1)




 そんなこんなで、お茶会は催された。お茶請けには、ナデシコの激甘ワッフルや 「次郎町屋」の煎餅などが並べられている。
 最初はぎこちなかった会話も、紅茶の香気とお菓子のおいしさにつられて、急速に 親密なものになっていく。もともと、年の近い少女同士なのだ。
「へえー。ONE壊滅の真相って、そうだったんだ」
「はい」
 茜から話を聞かされ、一堂は思わず唸ってしまう。こんな場所で、最高機密を聞か されてしまった。
「長岡志保のZZガンダムのハイメガキャノン試射で、私たちの基地は壊滅しまし た」
 淡々と語る茜。横では「まったく勘弁してほしいよね」と呟きながら、詩子が煎餅 にかじりついている。
「地球ではLEAFとF&Cがやりおうた〜いうてたし」
「DOSVの派閥争いも、いよいよ本格化ね」
「うん。Pia2にも、ナデシコの相転移エンジンの秘密を渡せって、もう何度も何 度も」
 もううんざりよ、とあずさ。
 その手が、残った最後のワッフルを取ろうとした時。

 すかっ。

「あ、あれ?」
 空を切ってしまった手をみつめて、あずさが呆けた声をあげる。見ると、あと一枚 あったはずのワッフルが忽然と消えている。
「ねえ。私のワッフル、誰か食べた?」
「ううん?。私は一枚しか……」
「いくら美味しいからって、人のものまで食べないです」
「ああ。やるとしたら……」
 みんなの視線が、「美味しい、美味しい」と無心に煎餅をかみ砕いている明日香に 集中する。
「ちょ、ちょっと!。人聞きの悪いこと言わないでよっ!。この明日香ちゃんがそん なことするわけないでしょっ!」
「いーや。お前ならやりかねん!」
「千恵〜〜〜っ!」
「明日香ちゃん、食べたことも悪いけど、隠すことはもっと悪いの」
「だから食べてないってば!」
「自首すると、罪は軽くなるらしいです」
「あんのねぇぇっっ!!」
 皆が言い争っているところに、テーブルの下から手が伸びる。
「!?。な、なあ、ちょっと!」
 それに気づいた夏穂が、みんなに声をかける。
 なんとその手には、肉球がついていた。
 獲物を求めてテーブルを這い回り、煎餅をつかむとテーブルの下にひっこむ。
 ばりぼり、という音が、しんとなった部屋に響き渡った。
「きっ、きゃあああああああっっっっっ!!!!!!????」
 悲鳴をあげたのは、真奈美だった。
「な、なんかいるぞっ!?」
「もっ、猛獣っ!?」
「まさか、月にそんなものが」
「だっ、だけどあの手、大きかったですよっ!?」
 パニックに陥る一同。
 やがて、煎餅をかみ砕く音が止んだ。
 テーブルクロスをかきわけて、その「猛獣」が姿をあらわす。
 それは、



 コアラだった。



「こあらっきーっ♪」
 コアラ……いや、正確には、コアラの着ぐるみが、嬉しそうに吼えた。
「きっ……」
「きゃあああっっっっっ!!!」
 美由紀と真奈美の悲鳴が、部屋の空気をつんざく。
「何者だ、お前っ!!」
「たったひとりで乗り込んでくるなんて、ええ度胸しとるやないのっ!」
 千恵と夏穂、2mはあろうかという巨大コアラに向かって身構える。
 すると、コアラはもぞもぞと腕を動かし、顎に手をかけて頭を「脱いだ」。
「ふーっ、暑かった」
 コアラの素顔は、夏穂たちと同い年くらいの少女だった。その愛らしい口元には、 煎餅の粉がついている。
「わおおおーんっ♪、あなたもコスプレ好きなの?」
 嬉しそうに話し掛けるつかさ。しかし、問題はそういうことではない。
「いったい、どうやってここに入り込んだの?」
「それとも、基地の人?」
「私の名は、館林見晴」
 見晴と名乗った少女は、続けてこう言いはなった。


「地球は、狙われているのっ!」


 緊迫感に溢れた声。強い決意の浮かんだ瞳。

 だが、残念ながら、首から下に説得力がない。

「夏穂、ふんじぱろうぜ」
「よっしゃ!」
「ち、ちょっと待ってよお」
 慌てて、見晴は肉球のついた手を横に振る。
「ね、狙われてるって言われてもなあ……」
「どうする、このコ。MPに突き出すか?」



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