「Leonids」VS「マウンテントップ」1
(Mtサイド)




 試合前。
 マウンテントップの控え室を、猪名川由宇が訊ねた。
「調子はどや?お二人さん……って、訊くまでもなさそうやなぁ」
 畳に寝そべってマンガを読む詠美の姿は、いつもの通りだった。
「なによ?温泉パンダがなんのよう?」
 煎餅をかじりながら、詠美は顔だけを由宇に向けた。
「別に大庭カに用はないわ。そこのめぐみちゃんに、ちょっとな」
 はいっ!と元気よく返事をして、めぐみは立ち上がった。
「お姉さん、わたし、ちょっと由宇さんとお話してきます」
「ふーん。試合開始までには、帰ってくるのよ」
 マンガに視線を戻すと、詠美はひらひらと手を振ってみせた。


「……で、なんや、話って?」
「はいっ、実はですね……」
 笑顔をきらきらと輝かせ、めぐみ。
「お姉さんとタッグを組むコツみたいなのを、教えてもらいたくて!」
「……なんでウチに訊くんや?」
「え?だって、『詠美ちゃんと由宇ちゃんは、LEAFの誇る名タッグよ』って、牧村南さんが……」
「……牧やん……余計なことを」
 由宇は、思わず天を仰いだ。「めいたっぐ」と言っても、「名」は「迷」の方だ。
「あのなぁ、めぐみちゃん。ウチとあのアホタレは」
 と、言いかけて。
 めぐみの、「?」と首をかしげる仕草をみて、由宇は何も言えなくなった。
「なぁ、なんで詠美のことを『お姉さん』って呼ぶん?」
「あはは、お姉さんが『そう呼びなさいよねっ』て……」
 苦笑しつつ「変ですか?」とめぐみは訊ねる。
 由宇は黙って首を振り、詠美のことを話し出した。

「そうやな……撃墜数だけで『エース』を決めるんなら、ウチら『こみパ』のエースはアイツやろな」
 持ち前の俊足で戦域でもっとも優位なポジションを確保し、ファンネルで次々と敵を倒してゆく。そのスピードについていけるのは、由宇と南と、そして瑞希くらいだった。
「それに、滅多にアイツはサーベルを抜かへん。接近戦みたいな泥くさいことは嫌、ゆうてな。実際敵はアイツに近づくこともできんのやから、まぁ言うだけのことはあるわな」
 めぐみは、熱っぽく頷きながら話を聴いた。その表情には、詠美への憧れと尊敬が浮かんでいた。
「せやけど……」
 と、由宇。
「いつも適当なところで勝手に帰還するわ、打ち合わせもなしに味方を平気で囮に使うわで、とにかく我が侭な奴や」
 その辺りのことで、由宇と詠美はいつもケンカが絶えない。

『ちょっと詠美、あんた、ええかんげんにしぃや。何べん言うたら解んねん!!!』
『な、な、なによぉ、くやしかったら、私よりたくさん墜としてみせないさいよお!!!』

「あ、アカン。思い出したらなんかハラたってきてもうた……」
 ふるふると拳を握り締めながら、由宇。
「確かに撃墜数だけは誰も敵わへんから、面と向かって文句ゆうもんもおらんけどな。まぁ、はっきりいってあまり好かれとらんわ」
「そうなんですか?」
 不思議そうに、めぐみは小首をかしげた。
「お姉さん、あんなに優しいのに……」
 由宇、思わず少女の顔をまじまじとみつめた。
「……本気でゆうとるんか?」
「?。はい……」
 めぐみ、いたって真面目な顔で首を縦に振る。
「……あいつは、幸せモンやな」
 由宇は、大きく息を吐き出した。
「昔のアイツは、そうやった。撃墜される敵のことを思いやって、全然墜とせんかった。それで、上から『もうお前はいらん』って言われてな……」
「敵を、思いやって?」
 めぐみが、「かくん」と首をひねったその時。


「ちょっとおメグ!!もう試合が始まっちゃうわよ!!」


 廊下の向こうで、詠美が大声で叫んでいる。
「え?え?もうそんな時間ですか!?」
 慌てて腕時計を見るめぐみ。すでに、試合開始3分前を指していた。
「まったく、これだからお子様はぁ!早く準備しなさいよねっ」
「ご、ごめんなさぁいっ!!すぐにいきますっ!!」
 めぐみは、あわただしく「ありがとうございましたっ!」と由宇に頭を下げ、ぱたぱたと駆け出す。
「おー、がんばりやー」
 その背中に声援を送りながら、由宇は胸中で呟いた。

(今日の相手は……詠美、いくらアンタでも……)

 由宇と南は、大会の組み合わせが決まった時、詠美に嫌というほど「油断するな」と忠告した。
 だが、詠美はそれに耳を貸さなかった。
 その時点で、由宇は彼女の敗北を確信していた。「雑魚だけを相手にしてきた」エースと、本当のエースの差が、この試合では歴然となるだろう。
 だが、今日愛田めぐみと話してみて、その確信が揺らいだ。

(あの娘なら……詠美の本当の力を、良さを、引き出せるかもしれへん……)

 そして、最後に、嫌々ながら付け加えた。

「だから……がんばりや。詠美」




Cブロック一回戦第一試合
「マウンテントップ」VS「Leonids」



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