GC0083年4月……。地球のDOSV連邦と宇宙のNECコロニー連合の間に起こった「PCE戦争」が終結してから2年が過ぎていた。その二年の間にNECコロニー連合は崩壊し、かわりに台頭してきた「ソニー」「セガ」の二大コロニーの間で激しい軍事衝突が勃発。その争いは、単なるコロニー同士の小競り合いにとどまらず、全コロニー、そして地球をも飲み込もうしていた……。
PCE戦争で伝説的な活躍を残し、英雄部隊として崇められた部隊「ときめき」は、現在窮地にたたされていた。リーダーである藤崎詩織を含む数人のメンバーの脱走により、残された隊員たちにも、その嫌疑がかけられたのだ。
強大な力は、たとえそれが味方のものであっても、人々に無用の警戒を抱かせる。
ときめきは、戦場では不敗のまま、軍事裁判によってその存在を抹消されようとしていた。
第2話「Try Your Luck!」(1)
サイド7、コナミのコロニー「きらめき」。
そこは、ときめきのメンバー達の故郷である。
宇宙と地球を駆け巡って戦わなければならない彼女達が、ここにいられる時間は短い。だからこそ、ここで過ごす時間は彼女たちにとって貴重なものだった。
しかし。
今彼女たちは、ここから出ることを許されていなかった。
彼女らは、軍事裁判を待つ身として、軍施設に拘置されているのだった。せっかく「きらめき」にいられても、軟禁状態にあるのでは意味がない。
「feel so bad!。ホント、皮肉よねー」
「ははっ、彩子がいうと、あんまり皮肉そうに聞こえないよな」
「アラ、ずいぶんねえ」
親友である清川望にそう言われ、片桐彩子は口をとがらせる。
「……私たち、どうなっちゃうのかなあ……」
心細げに声をあげたのは、ときめきのムードメーカーであるはずの虹野沙希だった。
「おいおい、そんなに暗くなってどうするんだよ。今のときめきのリーダーは、虹野さんなんだからさっ」
「そうですよ、虹野センパイっ」
「そんなの、センパイらしくないですっ」
後輩である早乙女優美と秋穂みのりにまでそう言われ、沙希は苦笑するしかなかった。
「でもさ……藤崎さん達が出ていってしまってから、すっかり淋しくなっちゃったよね」
虹野沙希、片桐彩子、清川望、如月未緒、そして早乙女好雄、優美。美咲鈴音、秋穂みのり。この8人が、今の「ときめき」の全メンバーだった。
「藤崎さん、美樹原さん、朝日奈さん、古式さん、そして鏡さん……みんな、どこにいってしまったんでしょうか」
未緒が、もの憂げに呟く。
「軍上層部がいう通リ、本当に反逆を起こしたのかしら?」
「そんな……わけ、ないよ……」
「…………」
部屋が重たい雰囲気に包まれる。そこへ、ドタドタという足音とともに好雄があらわれる。
「おい、ニュースニュースっ!!」
「なあに、お兄ちゃん。またくだらないことじゃあ……」
優美、ジロリと兄を睨む。
「バッカ、違うよっ!。俺たちの機体のことさっ」
「私たちの、機体?」
がたっと椅子をならして、望が立ち上がる。
「ああ。まず、虹野さんのマジンガーは、もうここにはないぜ」
「えっ!?えええ〜〜〜?」
「なんでも、レッドカンパニーに技術提携のため譲渡したらしい。あすこは、前から超合金Zに興味あるみたいだったからな」
「ち、ちょっとまってよ!。レッドって、独立してはいるけど親セガ派だよ!?。なんでそんなとこに」
「そこまではわかんねえ……よっぽど良い条件出されたのか、大金でも積まれたのかも」
「わ、わ、わたしのマジンガーがぁぁ……お金にぃぃぃ〜〜〜」
沙希、へなへなと机につっぷす。
「ゲッターGは、もうSCEに接収されちまったよ。ノーマルゲッターやエルガイムも、近日中に運び出されるらしいし…」
「そんな……いくら、もう鏡さんがいないからって」
望、悔しそうに呟く。ゲッター2のパイロットがいない今、確かに自分たちにゲッターは動かせないが……。
「戦力半減どころじゃないわねー、もう」
お手上げ、という仕草をして、彩子。
「まあ、俺のボスボロットには、さすがのお偉いさん達も手をつけなかったみたいだけどなっ。恐れ多いってことか」
わはは、と笑う好雄。もちろんそうではないことは全員が理解していた。
「そんなことより、鏡さんの行方だけど……」
「な、なにかわかったんですか?」
「ああ。どうやら鏡さんは、詩織ちゃんとは別行動してるみたいだな」
「どういうことですか?」
鈴音が首をかしげる。
「鏡さんは、詩織ちゃん達の後を追っていったわけじゃないってことさ。こうなる前に、とんずらこいたってのが正しいんじゃないか?」
「なるほどね……。確かに、そりゃ賢いかもな」
皮肉をこめた口調で、望。今の自分達の状況を顧ると、逃亡した鏡魅羅の判断は正しいのかも知れない。
「それにしても、早乙女くんどこからそんな情報を仕入れてくるんですか?」
「へへっ、それは企業秘密だぜ。……まあ、俺の情報網は隣のコロニーにもあるからなっ」
そういって好雄、胸をそらす。
「へえ、『ひびきの』に?。ど〜せ女の子がらみでしょ」
優美にそうつっこまれるが、好雄は無視した。
「とにかく、マジでやばいぜ!」
「このままじゃ無実の罪で牢屋行きってことになりかねないわね」
「で、でも、どうするんですか?」
何か、良い案があるんですか?と未緒。
「それなんだけどな……」
好雄、声を潜めて手招きする。皆は顔を見合わせ、それから輪になるようにして彼の周りに集まる。
好雄の話は、こうだった。
いまやソニー最高の科学者としての地位を欲しいままにしている紐緒結奈。彼女が、「ときめき」を逃がしてくれるらしい。
「確かなの、それ?」
望の中の「紐緒結奈」という人間像は、決して好意的なものではなかった。自分の野望のためには、何でもするというイメージがある。そんな彼女が、何故危ない橋を渡ってまで自分達を救うのだろう。
「ああ。どうやら紐緒さんにも、何か事情があるみたいだぜ」
好雄、紐緒結奈から受けとったというフロッピーを、備え付けの端末に入れる。
彼女からのメッセージが、モニタに表示される。
>>>>>
今晩午前零時。コロニーのL3搬入口に来られたし。そこに、脱出用の船と機体を待機させておく。
受け入れ先は、サイド6の伊集院グループ所有コロニー「レイ君アイランド」
なお、この逃亡計画は伊集院グループのパックアップの下行われる。
>>>
「どうする、これ。信じるか?」
「機体まで用意してくれるなんて……ずいぶん気が利いてるじゃない?」
「優美は、ちょっとギモンだなー。あの紐緒センパイが……」
優美の素直すぎるひとことが、みんなの心を代弁していた。
部屋に、重苦しい沈黙が訪れた。
しかし。
「わたしっ、信じるっ!」
沙希は、思わず立ち上がっていた。やけに、思いつめた表情をしている。
「……何か、根拠があるのか?」
はじめて見る彼女のそんな顔に驚きながらも、望が訊ねる。
「根拠なんて、ないけど……」
少し迷ったあと、沙希は語り出した。
「私ね、藤崎さんが脱走した時、ショックだったんだあ…。何か事情があるんだろうけど、ひとことくらい、相談して欲しかったよ」
それは沙希だけでなく、ときめきの全員が抱えている憤りだった。PCE戦争、そしてきらめき高校で共にすごした三年間は、いったいなんだったのだろう、と。
「結局、信じてもらえてなかったんだなあって、最初は腹が立ったの。でもよく考えたら、私も藤崎さんのこと信じてなかったような気がする。ニュータイプで、アイドルで、英雄なあの人を、『私とは違う世界の人だ』って風に思ってたんじゃないのか……って」
その声は、真剣に過去を悔い、そしてある決意を秘めたものだった。
「だから、もう……間違えたくないの」
場に、沈黙が訪れた。
それぞれ、心の中で今の沙希の言葉を反芻している。
「そうだな…。こういう時だからこそ、人を信じてみるのも悪くないかもな」
望、自分に言い聞かせるようにして呟く。
「でも、もし罠だったら?」
「その時は、その時じゃない?気楽にいきましょ」
もともと深く考えていないようだった彩子、未緒の背中をどん、と叩く。
「虹野センパイが信じるんだったら、もちろん私も信じますっ!」
「もう、みのりったら……。んじゃ、優美もしんじちゃおうかなっ」
「そうですね!。良い方に考えた方がいいですよ!」
年下三人組も、元気よく宣言する。
「なら、決まりだなっ」
「あら、好雄くんも信じるの?」
「そうじゃなかったら、もともとこんな話持ってこないぜ」
へへっ、と笑う好雄に、みんなもつられて笑った。
そして、夜。
ときめきのメンバーは、紐緒の指定したL3搬入口にやってきていた。
「来たわね」
紐緒結奈は、ただそれだけを言うと、薄暗い通路をすたすたと歩き始めた。
「ひ、紐緒さん、ひさしぶり」
「黙って歩きなさい。あまり時間はないのよ」
結奈にぴしゃりといわれ、沙希は思わず首をすくめる。
「ふう、あいかわらず無愛想な奴だなあ」
ため息をつきながらも、面々は彼女のあとに続く。
「これが、あなたたちの舟よ」
ポートにある白い戦艦を指差して、結奈。その声が、誰もいない搬入口に木霊する。
「なあんだ、木馬じゃないのか」
優美とみのり、鈴音が残念そうにため息をつく。彼女らは、今年の春新規に入隊したばかりだ。ときめきの旗艦として名高いホワイトベースに乗れると思っていたのに……。
「このアーガマの方が高性能よ。さっさと乗りなさい」
「Wait!ちょっと待ってよ。戦艦の運用なんて、とても私たちだけじゃあ」
「大丈夫よ。ホワイトベースのクルーは、全員集めてあるわ」
「ほ、ほんと?。きらめき高校のみんながいるの?」
パッと顔を輝かせて、沙希。
「当然よ。彼らも、あなたたちと同じく軟禁されていたのだから」
紐緒の言う通り、アーガマのタラップの向こうで、あの制服に身を包んだみんなが手を振っている。
「やっときたぜ!!遅いぜ、お前ら!!」
「もう、あんた達がいないとはじまらないでしょっ!」
共に戦った戦友であると同時に、同級生でもある大切な仲間たちだ。
「み、みんな……来てくれたんですね」
思わず、未緒は涙ぐむ。
「当然でしょ。私たち『ときめき』は、パイロットだけじゃないのよ」
珍しくいいことを言って、紐緒は沙希たちに乗艦を促した。
「物資積み込み、すべて終了しました」
「タラップ、収容します」
「艦内の生命維持、Fモードに移行」
「進路クリア。レーダーに反応なし」
アーガマのブリッジに、クルーたちの声が飛び交う。
「あの……本当にいいんでしょうか?。私なんかが艦長をやって」
心細そうに、未緒が呟く。アームで持ち上げられた艦長席は、控えめな性格の彼女には居心地がよくなかった。
「ごめんね、未緒。他にやれる人いないし……」
拝むような仕草で、沙希。
「ああ、俺たちはパイロットをやんなきゃならないからな」
「がんばってください、如月センパイっ!」
早乙女兄妹にそう言われ、未緒は渋々頷く。
「か、核パルスエンジンの調子はどうですか?」
「問題ありません」
「Lフィールドのミノフスキー粒子は?」
「21から30。熱源探知には支障なしっ」
ブリッジクルーたちの報告を聞き、未緒はぎこちなく頷く。
そこへ、管制室の紐緒から通信が入る。
「アーガマ、出航準備はいいようね?」
「うん。ありがとう。……私、紐緒さんのこと誤解してたみたいだ」
望、メインスクリーンに映る紐緒に、ぺこりと頭を下げる。
「ふ、ふん」
バツが悪そうに、紐緒は視線を逸らす。
「いいから、さっさと行ったらどう?。私の下僕たちがMPを足止めしているけど、それにも限度があるのよ」
「了解しました」
緊張した面持ちで頷くと、未緒は硬い口調で言い放つ。
「アーガマ、出港します!」
港を出て行くアーガマの勇姿を、管制室で見送りながら。
紐緒は、ひとりほくそえんだ。
「……藤崎さんがいないと、あんなものね。たやすいわ」
マイクを掴むと、周波数を合わせる。
「こちら紐緒結奈。……予定通り、ときめきを追い出したわ。あとは、上手くやって頂戴」
「わーいっ、宇宙だ宇宙だっ♪」
モニタに映し出される星の海をかぶりつくように眺めながら、はしゃぐ優美。
沙希や望たちも、思わずひと息ついていた。やっと、軟禁生活から解放されたのだ。
「もう、自由なんですね、私たち」
鈴音の声も、心なしか踊っている。
「でも、上手くサイド6まで行けるんでしょうか?。PS軍に見つかったら……」
「どんうぉーりー!心配ないわよ。私たちに勝てる部隊なんて、ウチにはいないんじゃない?」
いつもより更にお気楽な口調で、彩子。
「いるとすればTLSくらいだけど、今は地球にいるらしいですよ」
「へえ、みのりちゃん詳しいなあ」
「へへっ、友達の弥生ちゃんに聞いたんです」
そんな和やかな気分を、オペレーターの緊迫した声が破った。
「ミノフスキー干渉波に反応っ!!。戦艦クラスですっ!」
「う、嘘おっ!?」
「見つかるにしても、早すぎない!?」
「そうですよっ!。紐緒センパイの話じゃっ……」
動転する面々を、更なる凶報が襲う。
「ぺ、ペガサス級戦艦っ!トロイホースですっ!」
それを聞いて、面々は思い出した。
TLS以外にも、自分たちに匹敵する力を持つ部隊が、PS軍にいたことを。
「……ひびきの……」
自分達の直系の後継部隊の名を、鈴音は呆然と口にする。
「そんなことより、出撃するよっ!」
望がデッキに向かって駆け出す。沙希たちも、慌ててその後に続く。
「ときめきVSひびきのか。……ははっ、すごいことになったな」
望のその呟きは、興奮と恐怖に掠れていた。
「紐緒さん……どうしてっ、どうしてこんなことを」
艦長シートに腰掛けたまま、未緒はうなだれた。全ては、彼女の策略だったのだ。
「後続部隊出現っ!。MSクラス2、スーパーロボクラス2!」
そんな未緒の想いを置き去りにして、戦いは開始される。
「全砲門、ひらいてくださいっ!。沙希たちが発進するまで、敵を牽制っ!」
「新ゲッターチーム!。全員そろってるね?」
「は、はいっ」
「ハーイ!」
望の呼びかけに、鈴音とみのりが答える。
「わ、私なんかに、鏡さんの代わりが務まるんでしょうか?」
鈴音、もじもじと訊ねる。
「代わりなんてやらなくていいよ。今のゲッター2のパイロットは、鈴音ちゃんなんだからさ」
「は、はいっ」
「それで、みのりちゃんは……」
「え?あーあー、私なら大丈夫ですよう。前任者が、アレですから」
ボスボロットの好雄を指差して、みのり。
ひとしきり笑うと、望はマジメな顔つきに戻って、二人に言う。
「いい?。敵を落とそうなんて考えず、とにかく動きを良く見るんだ。気楽に、ね」
「ねえ!。これが私の新しいコかな?」
整備班長である鞠川奈津江に、虹野は訊ねる。
それは、全身を沙希のイメージカラーである「青」で塗装された無骨なロボットだった。
「そうよ!!。ウォーカーマシン、ザブングル」
「うぉーかーましん?……聞いたことない機種だね?」
「伊集院グループ開発の最新式なの。実弾兵装しかないけど、すっごく堅実な機体よ」
「へえー」
「別名、ブルーゲイル。虹野さんなら、きっと扱えるから、ガンバって!!」
「ありがとう、鞠川さんっ!」
笑顔でそう答えると、沙希はザブングルのコクピットに乗り込む。
「優美、お前の機体、なんだそりゃ?」
好雄、ボスボロットのコクピットから訊ねる。
優美にあてがわれたそれは、10mにも満たない小型の機体だった。巨大な実剣を腰から下げている。
「昆虫みたいなロボットだな?」
「うるさいなーお兄ちゃんは!。これは、オーラバトラーっていうの!。私にはオーラ力があるからって、わざわざ用意されたダンバインなんだから!」
「オーラ力だあ?。お前なら、オーバカの方が似合ってるぜ!」
自分のダジャレに、ひとりでオオウケする好雄。
「……優美、戦場で背中から撃っちゃおうかなぁ……」
「ハーイ!。お二人さん、油うってないででるわよっ!」
エルガイムの彩子が、カタパルトに乗っかる。
「片桐センパイっ!良かったですね、エルガイムが残ってて」
「アハハッ、私のスイートハニーだからね♪」
おどけて答えると、彩子は操縦レバーを押し倒す。
「エルガイム、彩子、レッツゴウ!!」
「よおし、優美もッ!!。……ダンバイン、翔びます!」
「ボスボロット、ゴー!!」
「ゲッターロボ、いっくよおおお!!!」
「虹野沙希、ザブングル、いきますっ!!!」